陽子がトイレに入ったことを確認した俊幸は、二人を隔てる扉一枚の向こう側の妻の姿を想像していた。
明らかに淫らに歪んだ欲望が湧き上がる俊幸は、何故か後ろめたさのようなものを感じた為か、足音を鳴らさないように、忍び足で扉に近づいた。
衣擦れの音に交じり、鼻から抜ける吐息が微かに聞こえる。
と、その時…。トイレの中の妻にメールの着信を知らせる振動音が…。
「えっ…。」「うそ…。」「嫌…。」
聞き逃してしまえば聞こえる事はなかったかもしれない。声にもならない心の揺れを漏らしたかのような悲痛な叫びにも聞こえる声が扉を通して漏れ出した。
直後、俊幸のスマホにも高木からのメールが届き、送られてきた動画をまさに今、陽子も観ているだろうことが理解できた。
僅かに聞こえる声色は、雌としての悦びを表すかのような喘ぎ声。
おそらく盗撮された動画に収められた音声だろう…。
卑猥に泣き叫ぶ妻の喘ぎを再びここで聞かされることになろうとは…。
動画には顔は映ってはいなかった。敢えてそのように撮影したのか、元のデータから編集されたものなのか…。
『これは…高木の仕業だな…。敢えて顔を映さなければ陽子だとわからない…。喘ぎ声を響かせて身体を震わせる女の姿…。これなら高木は陽子だと気づかず…陽子にだけ高木にも見られてしまった羞恥を植えつける事ができる…。
高木のやつ…なかなか頭がキレる…。』
その動画を見ているのであろう陽子の様子は、ドア越しに漏れ聞こえるいくつかの音によって想像がつく…。
『陽子が…一人で…。あの真面目な陽子が…オナニーに耽るなんて…。』
次第に響き渡る湿った音が、ハプニングバーで聞いた音と酷似してきている…。
隠しきれない吐息が陽子の昂りを推測させる…。
『陽子…まさかお前…。高木に見られたことを想像して…。逝くのか…オナニーして…逝き果ててしまうのか…!?』
おそらくハプニングバーでの出来事が動画を観る事によって鮮明に蘇っているのだろう。
尚且つ、俊幸に激しく求められるだろう想像ぐらいしていたはず…それが俊幸は寝室へと逃げ込み、止めとして高木から送られてきたメールによって受ける羞恥が、ホテッタままの陽子の心と身体を刺激したのだろう…。
鼻から漏れ出す甘い吐息と切なそうな吐息…。
ついに妻が高木の事を想像したであろうオナニーで逝き果てるのを確認すると、肩を落とすほどに落胆した心が力の入らない身体を引き摺るように寝室へと姿を消した…。
「まさか…陽子が高木に見られる事を想像するなんて…。」
信じられない思いを抱いたまま、疲れの為か深い眠りへと落ちていく…。
翌朝目覚めると、そこに妻の姿は無かった。確かにそこで眠っていたであろう痕跡を残したまま…。
「おはよう…。」
普段と変わらない朝…。
敢えて二人共に昨日の事を語ろうとしないのか…。
「買い物…?今日は特に予定もないし…。いいよ…付き合うよ…。」
いつも通りの優しく穏やかな笑みを浮かべて妻に答える。
「買い物に誘うなんて珍しいね…。何か欲しいものがあるのかな…?
さては…おねだり…?」
少し悪戯っぽい笑みを浮かべて妻の顔を覗き込むように見つめる…。
この時は、昨日の淫らな想いが嘘のように消え失せていた…。結婚当時の新鮮な気持ちを取り戻したかのような心躍るような感覚…。
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