目の前の光景は現実のものなのか…。それとも欲望が膨らみ過ぎた幻想でも見ているのか…。
『陽子が…あんなに真面目で清楚な陽子が…。』
驚愕の表情を浮かべながらも、食い入るように妻の姿を見つめる俊幸の瞳は羨望の輝きを放っている。
『高木に…妻を狙い続けていた高木に…。これは…現実の…もの…なのか…?
高木に抱かれて…あんなに…。』
艶やかな空間に響き渡る湿った音と、蒸せかえるような欲情した雌の香り。
薄暗い中にあっても、スポットライトを浴びた女優に群がる男達のような理解しがたい光景が広がっている。
『何故だ…。陽子…何故そんなに感じてしまうんだ…。そいつは高木だぞ…高木の腕の中で…何故そんなに…。』
思わず漏れ出してしまうような甘い吐息は、いつしか歓喜の喘ぎを奏でている。
『嘘だ…陽子に限って…そんな事…あるはずがない…。』
目を瞑り頭を左右にブルブルと振ってみても、鼓膜を震わせる妖艶な喘ぎ声と響き渡る卑猥な水音から逃れることはできなかった。
否定したい気持ちと、更なる刺激を願う気持ち。
正反対の感情に俊幸の心は張り裂けそうになった…。
「今夜はこの辺にしておきましょうか…。」
強張った表情には薄く笑みを浮かべていながらも、憤りも浮かび上がる複雑な感情を表していた。
妻を責め立てる高木の手を力強く掴み、その行為を制止すると、高木に与えられる快楽に堕ちそうな妻を奪い取るように腕の中に抱き寄せ、雄の欲望が香り立つブラウスで妻の身体を隠すように…。
「大丈夫か…?今日はここまでだ…。」
怒りが込められているようでもあり、至極冷静とも思える落ち着いた声で妻を労い、まだ震える脚で上手くは歩けない妻を抱えるように店を出る。
『やり過ぎたか…。いや…陽子はもっと…。』
両極端な自問自答を繰り返しながら帰路につく。
終始無言のまま妻の腰に回した腕から微熱を発する妻の異変を感じ取りながら帰宅した二人。
シャワーを浴びると足早に寝室へ向かい、無機質なドアの閉まる音が二人の心の中に渦巻くざわめきを断ち切るように静寂が訪れる…。
現実から逃避するようにベッドの中へ潜り込み息を潜める。
途端にクラヤミノ中に浮かび上がるハプニングバーでの光景。
「なんで高木のやつなんかに陽子を差し出してしまったんだ…。」
「何故陽子は…あんなに感じてしまったんだ…。」
「陽子は真面目で清楚だったんじゃないのか…。」
「ホントは…高木が言ったように…好き者…そんな女だったのか…。」
負の感情ばかりが湧き上がり、同時に怒りも込み上げて、今にも大声で叫んでしまいそうになる自分を辛うじて抑える。
「頭を冷やせ…冷静になって考えるんだ…。」
自分に言い聞かせるように呟き、荒く乱れた呼吸を少しずつ落ち着かせていく…。
「全部…俺が望んだこと…。陽子は嫌々付き合ってくれただけなんだ…。」
本来の主旨と流れを思い返せば、妻には何一つ非は無い事くらい簡単にわかる。
「何故こんなに冷たい態度を取ってしまったんだ…。陽子に謝らないと…。」
ベッドから抜け出そうと暗闇の中に身を投じた瞬間、リビングから出て廊下を歩く足音が聞こえ、トイレの扉が静かに閉まる音がした…。
「トイレか…少しタイミングをズラそう…。」
そんな申し訳なさを抱いた俊幸の想いとは裏腹に、妻がトイレから出てくる気配がしない。
何故そうしたのか…何か後ろめたさのようなものを感じながら、足音を響かせないようにトイレに近づく…。
『まっ…まさかっ…陽子のやつ…トイレの中でオナニーを…!?』
衣服が擦れるような音…。ハプニングバーで耳にした湿った卑猥な音…。
何より愛する妻の堪えきれずに漏れ出すくぐもったような吐息…。
『間違いない…陽子は…今…。オナニーしているんだ…。』
高木の手によって逝かされる事に耐えられないと感じ、果てる寸前で高木の手から奪い返した事で、妻の身体は極限状態に火照っていることが容易に想像できた…。
『まさか陽子が…俺に隠れてオナニーするなんて…。前から一人で…?それとも今日が初めて…?』
そんな想いがハプニングバーとは違うドキドキ感を俊幸に与え始めたとき、不意にトイレの中からスマホの着信音が響く。
一瞬身を固めて、たじろぐ俊幸だったが、妻の口から堪えように堪えきれなかったような驚愕とも思える短い声が…。
≪陽子ちゃん、あれからどうしてる?
ほら…この前居酒屋でさぁ…課長がトイレに立ったときに誘ったハプニングバー…少しは考えてみてくれたかな?
とりあえず…どんな店か知って欲しくてね…。≫
メールには店内を撮影した動画が貼付されていた。
≪このカップル…初心者夫婦みたいなんだけど…この奧さんの乱れ方凄くない?
真面目そうな奧さんだって話しだったけど、この店ではこんなに乱れちゃうんだよね…。
陽子ちゃんも一度は体験してみたらいいんじゃないかな?
課長と一緒でもいいしで何なら僕が同伴しても構わないよ…なんてね…(笑)≫
そんなメールには、今さっきまで乱れていた陽子の姿があった。店でマニアが盗撮した映像らしいが、プライバシーの観点から顔は映らないように加工されていた…。
と、そのメールと共に、俊幸のところにも高木からメールが届き、ポケットの中に入れたままのスマホが音もなく震え…。
≪課長…今日はとても楽しませてもらいました…。
この盗撮映像…奥様にも送らせていただきました…。夫婦のスキンシップのスパイスにでもなればと思いまして…。
また機会がありましたら…わたくしでよろしければいくらでもお相手して差し上げますよ…。≫
どこか俊幸を見下したような文面に、内心苛立ちながらも、興奮は確実に俊幸の寝取られマゾとしての精神を蝕んでいく…。
【こんばんは…。私などまだまだですが、お褒めいただきありがとうございます。
でも、心待ちにされているなんて…遅くなってしまって申し訳なく思います。
急いで打ったので誤字脱字、変換ミス等あった場合はお許しください…。】
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