私の手を握る妻の手からも妻の緊張が伝わってくる。
極度の緊張も無理はない。夫婦の絆の為と言ったところで、ここまで着いてきてくれる妻などそうは居ないだろう…。
『きっと…凄く無理をしているはず…。』
そうは思ってみても、正直なところ昂りは増して何かを期待している自分がいる。
「ん…?いや…そんなことは…。」
カクテルを運んできた女性の胸元が無防備に露わになった様を唖然として見つめていたのは事実。
しかし、俊幸一筋であろう妻を嫉妬させようとする意図が無かったとは言えなかった。
『少しは妬いてくれたのかな…?嫉妬はある意味スパイスになるからな…。』
手のひらを抓る妻の仕草がそれを物語っていた。
そんな互いの想いを打ち消すように更なる緊張が走る。見学のはずだったこの場に他人が同席するという…。
この薄暗がりではよほど近寄らないと何も見えないだろう。見学とは言ってもこの場の雰囲気を感じ取る事しかできない。
それはそれで初めての私達夫婦にとってちょうど良いのかもしれない。
しかし…俊幸は更なる刺激を求めてしまっていた…。
「ど…どうも…。」
紳士的に挨拶をするオトコを目の前に少し緊張気味に言葉を交わす。
こういった場に慣れているのだろう…妻を褒める事を怠らない辺り、社交性に優れているのだろうか…。
『しかし…この声色…。どこかで聞いたことがあるような…。』
記憶のどこかに引っ掛かっているような男の声…。ハッキリとした記憶ではない為に判断できない。
『どこかで…確かに…。似た声なだけか…。でも…わからない…。』
そんな俊幸の歯案を他所に男の饒舌は止まらない。
妻を褒め妻から笑みを勝ち取るように引き出す話力。
一瞬の隙を見せてしまった妻につけ込むように、男の本領が発揮し始まる。
「解放…そうですね…。」
男の言葉に気持ちの入ってないような曖昧な答えをしてみる。その言葉を聞いて妻の様子は先程の笑みは消え俯いて恥ずかしそうに…。
『そりゃそうだろう…面と向かってエッチだろうなんて言われたことも無いんだから…。』
清楚で真面目な妻には少し刺激が強すぎるかもしれない。しかしこの最初の壁を乗り越えなければ次はない…。
『焦るな…焦っても結果は伴わない…。せっかくここまで連れてくる事ができたんだ…。次に繋がるように仕向けないと…。』
暗闇に慣れてきた目が、周りの状況を克明に映しだす。肩に手を回しゆっくりと酒を楽しむ男女もいれば、男達数人に囲まれるように談笑している女性。
中には胸元をはだけ柔らかな胸の膨らみを晒し、スカートも捲れ上がり細く白い脚が物欲しげに蠢く様までも見えてきた…。
男に促されて周りに視線を向ける私達夫婦。
呆気にとられていたのは私だけではなかったようで、妻も他人の秘め事を食い入るように見つめていた。その頬は薄らと明るく染まっているようにも思えた。
『陽子は…他人の行為を見る事なんて初めてだろう…。とは言っても俺だって生で見るのは初めてだけど…。』
俊幸の手を握る妻の手は更に汗ばみ、時折キュッキュッと強く握ってきたりもする…。
「あそこの女性…大胆だな…。周りを男達に囲まれてるのに…あんなに服をはだけて…。」
妻を抱き寄せるように引き寄せ、耳元で囁く言葉と共に吐き出される吐息が耳朶を擽るように…。
「陽子は…何ができるって…言ってたよね…?」
あの夜の妻の言葉を思い出させるように呟いた。
「俺の為に…。俺達夫婦の絆の為に…。目の前の男…陽子の胸元に視線を這わせているよ…。
ピッタリと閉じられた膝元にもね…。」
耳元で囁く言葉が妻を追い詰めていく。
「陽子のこと…綺麗だって褒めてくれてたよね…?
男なら…綺麗な奧さんを…もっとよく見たいって…思うんだろうな…。さっきの店の女の人…みたいにさ…。」
露わに晒された女性店員の姿と、そこを凝視していた俊幸の視線を思い出させるように仕向ける。
「少し…そう…少しでいいから…。脚の力を緩めてくれないか…。
目の前の男の視線を誘い込むように…。」
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