「えっ、えっ、あのっ、す、座ってもいいんですか…?」
一ヶ月ぶりの優しさに触れ、戸惑いながらもソファに座る。
客より先に腰掛けたことに謎の不安感を覚えるが、もはや吉田は背中の傷や顔や指の包帯に目がいっており、慌てている様子がなんだかおかしくて、少し笑ってしまった。
「クスクス…、え、いや、あの、申し訳ありません…。なんだか、傷を見て慌てているのが少し珍しくて…。ううん、休んではいなくて、裏で荷物の仕分けとお掃除を任せてもらっていたんです。でもこの指だから上手くできなくて、疲れてサボっていて、バレちゃいました…、えへへ…。」
彼からは強く鋭い感情を感じず、心から気が休まる。
大抵の客は攻撃性や性欲などの強い感情があり、一緒の部屋にいるだけで精神が削られる。
ここではそんなことはない。
「……っ、ぁ、あはは…。そりゃまあ、気になりますよね…。ご主人様、こういうの慣れてないって言ってましたし…。」
昨日のことはあまり思い出したくはない。
思い返すたびに、傷が疼き、苦痛や恐怖が蘇る。
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(チビのバカ女…。そりゃそうだね、私、学校行ってないし…。そういう問題じゃないか…。)
この客はユウナの太客。しかし、人気の彼女はフラッと来たときには予約で埋まっていることがあり、対して年増(ソナでは)で、大した特徴もないメイは空きが多い。
目当ての嬢が引けず、ムシャクシャし、苛立っている客の相手することも当然多かった。
喉奥まで深くペニスが突き刺さり、呼吸ができなくても助けてもらえない。
酸欠になり、どこか客観視して、思考が霞んできていた。
「ん゛ッ、ぐっ、ぅ゛ッ!!ん゛ッ!!」
(あ、ホントに、ヤバ、イ…。もう、駄目、死…ぬ…?)
くぐもった声でもう限界であることを伝える。
しかし、客は下品に笑い、むしろ目の前で人が死ぬことすら望む瞳で見下ろしていた。
目の前がチカチカ白黒に点滅し、じわぁっと視界の端から真っ黒に染まっていった。
脳裏に走馬灯が浮かぶが、始めてのこの店に来た時のこと、客を取ったこと、殴られて蹴られて、鞭で打たれて…
(最期すら、碌な思い出ないや…。また、吉田様、会いた…)
ブツっと意識が途切れる。
眼球がぐるっと上に回り、白目を剥いて全身から力が抜けた。
ようやく口からペニスが引き抜かれると、床に倒れ、暫く時間をおいて気道に空気が通る。
「ゲホッ、ゲェッ!!ゲェ゛ッ!!ぅ゛ゲェホッ!!」
三途の川の手前で現実に引き戻された。
きっとメイが死んでも、どこかの社長の彼は何も感じないだろう。ただ、割高な罰金を払って終わりなだけ。
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「本当に死んじゃうと思いました…、実際意識失って死にかけましたし…。…ちょっと、死んじゃったほうがよかったかもなって思いましたけど…。えっと、それで、もう一回咥えろって言われて…。私、怖かったんです。だって今さっきそれで死にかけたんですよ?死んだほうがよかった、なんて生意気なことを言いましたけど、そうすぐ割り切れないですよね、人間って。…暴れちゃって。爪が、こう、でも、本当にカリって、カリってだけ…。その瞬間、顔面殴られちゃって…。文字通りひっくり返って、壁まで転がっちゃって…。」
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「嫌っ、嫌ァッ!!痛い痛いぃッ!!お許しくださいぃッ!!」
あの後何度も殴られ、右半分の顔が内出血でで変色してしまっており、視界が歪んでいる。
当然治療もされず、ソファに座る客に腕を掴まれ、部屋のクローゼットに収納されている『備品』のペンチで爪を剥がされている。
「ごめんなさっ、ぁッ、あ゛ぁァァ゛ッ!!!」
ペキっ、パキッ
軽い音との太いメイの悲鳴が部屋に響く。
時折「うるせぇ」と殴られ、お腹を蹴られた。
両手の爪を剥がされた後は、土下座させられ、その背中を一本鞭で何度も打たれ…
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「それで、一回鞭で打たれるたびに謝るんですけど、こう…、一本鞭ってバラ鞭と違って、一撃が重いんです。打たれるたびに呼吸ができなくなって、謝れなくなって、また怒られて…、え、あっ、も、もういいんですか?もうちょっと続きありますけど…。」
(なんでご主人様がこんなに苦しそうなんだろ…。私はご主人様にまたお会いできたし、昨日のことだから別にいいんだけどな…。)
本人よりも苦しそうに、苦虫を噛み締めたような顔の吉田に首を傾げる。
「…申し訳ありません、空気を冷めさせてしまいましたね。あの、じゃあ、なんか楽しい話をしましょう!ご主人様は趣味とか楽しみとか。そういうのはあるんですか?」
少し白けた空気が漂い、慌てて話題を変える。
客に甘えてしまうことになるけれど、この時間は楽しく過ごしたかった。
「へえ、あははっ、楽しそう…!いいなあ…って、あ…。」
タイマーの音が鳴る。
その瞬間、露骨に肩を落とすメイ。
(もうこんな時間…。終わったら、作業しないで寝てたこと怒られるんだろうなあ…。ご飯抜きくらいで済めばいいけど…。)
「あ、あのっ!…えっと、あの、や、ぁ、えーっと…。」
別れの間際、口を開いては閉じ、目を合わせては背けるを繰り返す。
言いにくそうに唇を震わせながら、言い淀むメイを吉田は言葉を待ってくれていた。
「キス…してほしいです…。その、あっ、のっ!嫌じゃなかったら、なんですけど……」
(いっ、いいっ、言っちゃった…!でも、こんな奴隷とキスなんて…、してくれないよね…。我儘で生意気な女って、幻滅されたかも…。もう会えない…かも…。)
ネガティブな思考がどんどん浮かんできて、俯いてしまう。
痛む指先でベビードールの裾を摘み、我儘を言ったことを後悔し始めた。
【ありがとうございます。お客様の傲慢っぷりがとても素敵です。私もシチュを思いついてから初めてのプレイなので、手探りなところがありますが、こちらもこのような感じで大丈夫でしょうか?
それと、今日はたまたまお休みをいただいていたのでお昼に返せましたが、通常は、夜に一日一レスくらいになってしまいます…。】
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