ヨハンセンが姿を消した後、フレデリックが一歩足を動かした瞬間、ウェイストとクレア以外に〝刻止まり〟の魔法を掛けると音楽、会話も止まり静まり返る会場。
二人は辺りを見回しウェイストがクレアを後ろにし警戒する中、微笑を浮かべながら目の前まで歩くリルベル。
「驚きまして?ウェイスト様、クレア様、今の所はお二人に危害を加えるつもりはありません、ただ私達の計画を邪魔立てするのなら容赦なく排除させて頂きます。」
「計画とは?それに貴女とヨハンセン様のご関係は?」
「申し遅れました、私、ヨハンセン様に婚約の打診を受けお受けしたリルベルと申します。」
「まぁ、ヨハンセン様のご婚約者様なのですね、ウェイスト様、お綺麗な方ですね。」
まだ警戒を解かないウェイストと婚約した者同士、友好的なクレア。
「お二人に見てもらいたいものがありまして…、お断りになられても見て頂きますが…、〝回想魔法〟」
二人に回想魔法を掛けるとクレアは小さく悲痛な声を上げ目に涙を溜める、ウェイストは声は出さないものの苦痛の表情になる。
「それが〝正聖女、ベル〟に有ったことです、ベルは偽りの罪で王族、仲間達に裏切られギロチン刑に処せられたのです。
そしてベルだった私はヨハンセンのお陰で…、魔族として復活しました。」
回想魔法を解いた後、ウェイストが先に声を出す。
「これは王国がしたと言うこと?まさか……噂は本当であったか…、勇者メルビルが魔の子山の人間国と魔国が繋がる祠を潜ったのは…、否、警備がどうなっているかを調べ……、いいや、
奪う為に侵入したと言うのか、信じられん、信じたくない!」
「騎士様が王国に忠誠を誓われているのは知っていますが、先程見た事が真実です、お心当たりありませんか?
例えば…、勇者が魔の子村を襲い村の女性達を…、女性達を救おうとする男性達を斬りつけたなど…。」
「まだ真実がはっきりしたわけでない!それにその回想魔法で見せられたものが、貴女が正聖女ベル様だったと言うのが真実かも判らないではないか!(俺は何の為に王族に忠誠を誓ったのか……。)」
「…ウェイスト様、その方がベル様…、正聖女様なら偽りをおっしゃるわけがありません。
酷い、ベル様の尊厳を…、大公様達を…。
お父様、お母様もお知りだったとは…、それにフレデリックに至ってはベル様と邪竜討伐の旅に出た仲間だと言うのに……。
軽蔑に値します、人ではない…、獣以下です。」
「ウェイスト様、信じられないのは無理もありません、では……。」
会場に居る魔の子村の孫娘と青年の方へ元に行き〝刻止まり魔法〟を解くと二人がリルベルに頭を下げる。
「リルベル様、……人間だった時、正聖女様ですよね?」
「ごめんなさいね、今は私、魔族なのよ。」
「○○!魔族だとしても魔の子村の皆を救ってくれた事は間違いない事です!」
「改めまして私、魔族のリルベルと申します、貴方がたの村で起こった事をあの二人に話してもらえるかしら?」
「はい!村の救世主様!」
「村の救世主……。」
「ウェイスト様、彼らは私達の事を知りません、きっと真実を話してくれるでしょう。」
「クレア…、それが真実だとしたら回想魔法で見せられた映像が真実だと言う事になる、俺はどうしたらいいのだ…。」
「何もしなくていいのです、私達がする事を邪魔立てだけはしないで頂きたいです。」
「何をなさるのですか?」
「私は何もしませんよ?クレア様、ごめんなさいね、最初の復讐相手はフレデリック、貴女の家族よ。」
「………(涙を流し頷く。)あの者達は私の家族ではありません!人の皮を被った獣です!」
○○と○○○は魔の子村で起こった卑劣で残忍な出来事を語り、魔法石の映像もあると言い、新聞社に伝えていると教える。
「今から〝刻止まり魔法〟を解きます、この後起こる出来事を邪魔だけはしないで下さい、邪魔をされるとお二人も復讐対象者となります。
忠告しましたよ?」
静寂だった会場に音楽が鳴り、リルベルの元にフレデリックはじめ恥知らずな者達が近寄ってくる。
「お嬢様、少しお話を。」
「いいや、私とダンスを。」
「お前、俺が一番にお声掛けしたんだぞ!」
リルベルに害虫の様に群がる上位貴族であるフレデリック、婚約者が居るにも関わらずリルベルを拷問した騎士、貴族子息etcに軽蔑な視線を遠慮なく向ける貴族達とウェイストとクレア。
「フレデリック!貴様は誰に声掛けしておるのだ?魔国からの客分であるヨハンセン殿の婚約者に対し下の者から声掛けするなど言語道断!」
「フレデリック、貴様は確か第一騎士団副団長であったな、それ程の者が婚約指輪をしている女性を誘うなど…、騎士団の名を穢すつもりか!」
「指輪?…その様な物…!?(先程まで見えぬ物が何故?)し、失礼しました、余りの美しさに我を忘れ……。」
「国王様、前国王様(小首を傾げ)こちらの方々を許して差し上げてくださいませ、隣に居ないヨハンセン様がいけないのですから…。
火急があるからと姿を消されてしまったのです。」
「うむっ、ヨハンセン殿のご婚約者のお嬢さんがそこまで言うならば不問に致そう。」
「フレデリック、美しい女性に目を奪われるのは仕方のない事だ、お前も早々に婚約者探しをせねばならぬな。」
ざわつく会場。
婚約者が居る相手、しかも友好国である魔国の客分の婚約者を衆人の中でアプローチする男に娘はやれぬなど様々な声に
フレデリックの中は羞恥と逆恨みにも等しい感情で溢れている。
「(魔国の客分などなんだ!国王も衆人の前で注意などせずとも!)」
「皆様、お騒がせしてしまい申し訳ありません。」
リルベルの声に我に返るフレデリック、頭を下げ視線は外さず衆人達に誠意を持ち騒がせた事を謝るリルベル。
その姿にまた目を奪われ良からぬ事を思いつくフレデリック。
「(……魔国と言え男女二人で密室になれば婚約破棄…、そうだ!この美しい女性を魔国の客分から奪えば地位が上がるに違いない!)」
「誤解させてしまって申し訳ありませんが私、ヨハンセン様には助けて頂いて…。」
「助けてもらって(断れず婚約したと言う事か、ならば俺が助けてやる!)そうでしたか…。」
−−−フレデリックの脳内−−−
一度、婚約者とダンスをした後は誘っても大丈夫だ、ならばダンス後、シャンパンを進め…、憎き魔族の隙を付いて控えの間に連れ本音を聞き出そう。
あの魔族のヨハンセンから離せばきっと自分の方を見てくれる筈だ、屋敷に否、別宅に匿い助ければ
俺に心を向けてくれるだろう、それに…、あの身体……。
−−−会場−−−
国王、フレデリック、クレアの父母、ウェイストの家族達が見ているというのにフレデリックは無遠慮にリルベルに好奇かつ猥りがましい視線をぶつける。
「ウェイスト様、フレデリックはリルベル様の事に気付いていないのですね…、残念です。」
「クレア、会場入りする前に話した事を覚えているか?」
「えぇ、家を捨てる覚悟でしたわね、貴方がウェイストが居てくれさえすれば構いません。
それに私、あの者達と縁を切りたいです。」
「その点については私の遠縁と養子縁組をしてから嫁いでくればいい。」
「ウェイスト様、お願い致します。」
−−−魔の子山、あばら家−−−
「日が暮れたわ、お兄様が言っていた時刻ね、本当に魔法使えるのかしら?」
「姉上の回復水で大分力を取り戻した様だが……。」
「灯れ…。」
薄暗かった屋敷が明るくなる。
「次は食事だな、魔牛シチューでいいな?」
「パンとサラダもね、あと珈琲と果物もね。」
「はいはい、解りました。」
人さし指をテーブルに向け、脳内に食べ物、飲み物を思い浮かべるとテーブルに二人分の食事が並ぶ。
「何でよ!エルの方が魔力が強いのよ!」
「それは仕方ないだろう、タリスは攻撃魔法より支援補助魔法が得意なのだから…、とは言えタリスの方が風魔法は得意ではないか。姉上の回復水を飲めば更に回復するぞ。」
「そうね、お姉様の回復水、飲みやすい様にフルーツ水になってるのよ。」
「やっと認めたな。」
「仕方ないじゃない、お兄様が決めた方を受け入れないと…、それにお姉様、悪い人でないと思うの。」
「あぁ、兄上の事を想って復讐と同時に父上母上を救う手立てを考えてくれている。」
「そうなのよ、あの魔の子村で衰弱した子猫なんか連れて帰ろうとは思わないのよね、普通は…、お姉様が人間だったからかしら?」
「それは判らない、人間だったからなのか、元々の性格なのか、魔族は幼き頃より弱き者は切り捨てると教育されているからな。」
「だから私達、魔王家が弱きを守り統一すると教育されているのだから。」
−−−会場−−−
「そろそろヨハンセンと記者は戻る頃かしら?」
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