〘別にそんなに恩に着る物でもないさ、前にも言ったように、最初は手慰みでやっただけだからな。それより馬車はもう酒場の前に着くぞ、心の準備はいいか。それに王国が魔国に攻め入ると分かったからには、麗しの君、君を復活させておいてよかったと、今更ながら思う。〙
ヨハンセンがそんなことを、テレパシーでリルベルと話している間に馬車は酒場の前に止まる。
「さぁ、着いたようです。メルヒル殿参りましょうか。」
ヨハンセンはそう言ってから続けて
「フアナ様はここでお待ちくださいませ。荒くれ共がいると、面倒ですゆえ。」
「何言ってるの?ヨハンセン。そんなもの共がいても、メルヒル様が守ってくださいますよね。」
メルヒルにしなだれかかるフアナ。
ーーーーーーーーーー10年前の王国広場----------
後処理を終え胴体を運ぶために、広場に戻って来る執行人達。
「おい、さっき飛ばした女の首と胴体が無いぞ、どうした?」
「あれっ、ほんとだ。誰か持って行ってくれたのかもな。」
「崖から下に落とすだけとはいえ、あんなとこに好き好んでいくやついるのか?〇しぶきや他の首はそのままだし…」
「いいじゃないの。俺たちの仕事が減ったんだから。」
「それも、そうだな(笑)」
〇しぶきを掃き広げその上に砂をかける執行人達。
「しかし、悪趣味だよな…いつまで置いておくんだろうなこの首」
「なんでも皇太子の希望とか…さっきの女も本当は無実だってもっぱらの噂だ。」
「おい、そこらへんで止めとけ。皇太子の耳にでも入ろうものなら、俺たちの首も離れちまうぞ。」
「ああそうだな、でも女の首と胴体が無くなったことだけは、報告しといたほうが良さそうだ。」
「止めとけ止めとけ。刑執行の場面には、皇太子も立ち会って、離れた瞬間には薄笑い浮かべてたぞ。それにわざわざ見に来るなんてことないさ。」
「そうかなぁ…」
「そうさ、それに見に来て首が無いことが分かっても、カラスが持って行ったと言えばいいだろ。」
「でもなぁ…」
そう言いながらも最終的には同僚の言うことを聞き入れ、報告しないことに同意する。
「胴体は崖下だし、首はカラスが持っていった。いいな。」
執行人の一人の心配通り、女の首が無いことを皇太子が知って激怒、執行人は刑に処されてしまった。
その後国中の捜索が行われたが、首の行方はようとしてわからなかった。
ーーーーーーーーーーヨハンセン回想----------
刑執行日から数日の後、女が復活している期待なぞなく、あばら家を訪れるヨハンセン。
扉を開けると、身体は動かせないながらも、キョロキョロと目だけ動かしている女の姿がそこにあった。
「これは驚いた、復活しとるわ。よほど、恨み・復讐心・未練等が強かったと見える。(笑)」
ベットに近づき、ベットに横たわる女を見下ろすヨハンセン。
「私か?そう警戒するな。私は魔国の者だが、国王の呼ばれて今は人間国に身を寄せている身。街を散策していたら、主の処刑場面に出くわしてな。この世への未練等を強く感じたので、手慰みに復活魔法を施した。本当に復活できるかどうかは、主の恨み・復讐心・未練等の強さに関わっていたが…」
壁際にある貧相な椅子に腰を下ろし
「復活なぞと余計なことをしたかな?」
ーーーーーーーーーー5年後----------
国王が退位して、皇太子が後を継いだ人間国。
新国王は前国王と違い、魔国との関係を友好から対立へと変化 させていった。新国王は勇者メルヒルを使い、魔国に攻め入る計画を考えていた。
前国王の執事に納まっていたヨハンセンは、その動きを知らない。
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