「はい…。事実はきちんと認めます。しかし、それ以外のことは認めるわけにはいきません。」
アオトの想いとは真逆に、キッパリとした口調で答える。
短い接見時間は終わりを告げ、看守係に連れられ、牢へと戻された。
(冤罪なのに、罪を認めてしまったら本当の罪になってしまうのに…。アオトはどうしてあのようなことを…)
深く考える間もなく、また別の看守が来て、腰縄を付けられる。
手枷と腰縄により逃げることは不可能だが、そもそも逃げる気は毛頭なく、疑いを晴らそうと取調室に赴いた。
「ムラノさんですね。リズベット・コーナーと申します。よろしくお願いいたします。」
椅子に座り、対面の男に深く頭を下げて挨拶する。
机の上に並べられた獣人達は全て見覚えがあった。
それは当然のことで、みんな過去にリズベットの使用人をしていた子達だった。
「ええ、左上からユウナ、レノン、ミナト、スズナ…」
屋敷にいた期間は短い者だと数ヶ月程度だったが、鮮明に覚えている。心から家族だと思っていたからこそ。
「みんな屋敷で使用人として飼っていました。屋敷にも定員がありますので、希望する獣人は家族や友人のもとに帰したりしています。この写真に写っている子達は全員…」
対外的には『飼っている』ということにしており、公の場面ではこのように口にするが、それでも内心チクリと痛む。
怪我を治し、言葉や文字を教えた。歴史や社会についても授業を行い、獣人達の教養を高めた。
「……え。そ、そのようなことはあり得ませんっ!歴史や社会の仕組みについて授業はしています。しかし、獣人や人に一方の偏りが出ないように教えているつもりですし、そもそも私は、暴力行為を働く獣人ゲリラには否定的な立場で、そのように教えています…っ!何かの間違いじゃ…。」
人と獣人の歴史について教えていたが、リズベットの言う通り、一方の立場に偏りすぎない、中立な授業をしていたつもりだった。
人と獣人が手を取り合える未来を望むからこそ、過去を教える必要があった。
人と獣人の歴史は、すなわち差別の歴史。
優しく、柔らかく教えたとしても、リズベットの想いとは別に、反発心、反抗心を育て上げてしまっていた。
(間違い…であってほしいけれど…。管理番号ですぐに、そして明確にわかること…。あの子達が獣人ゲリラに…?なんで…、どうして…?)
ユウナは美しい猫人だったが、軍に捕えられる際に顔に大きな傷を負った。奴隷商の手に渡ったが、十分な治療はされずに痕が残り、扱いも一際酷い、安価な低級奴隷に身を落とした。
レノンは巨乳が特徴となる牛人で、それこそ母乳工場で家畜の扱いを受けていた。
彼女達が人を恨む理由は痛いほどわかる。
(でも、私と同じ思いを…。人と獣人が手を取り合う未来を願ってくれたと思っていたのに…)
衝撃の事実に血の気が引く思いだったが、それでも検事の目を見つめ、強く冤罪を訴える。
「私は確かにこの子達に教育を施しましたが、反国家的な教育はしていません。私の屋敷にいた獣人達に授業の内容を聞きましたか?ごく一般的な初等教育に近いはずです…っ」
【お疲れ様です。こちらもストーリーパートを楽しくやらせていただいております。ストーリーをしっかり作った方が、後々酷い目にあった時に、よりドキドキできますので】
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