「ひどい…。こんなの、人権無視じゃない…。みんなもこんなところに収容されてしまったのかしら…。」
かろうじて下着は与えられたものの、薄く安っぽい囚人服は身体に張り付き、身体のラインをくっきり表す。
そんな福に包まれたリズベットは、窓もなく、打ちっぱなしで、ジメジメとした湿度が高い、いるだけで不快な牢に入れれた。
骨組みされている程度の簡素なベッドに腰掛けると、リズベットの体重でさえ、ギシ…と軋む音がする。
(これトイレ…、よね…?用を出すとなれば、これに…?)
便器は剥き出しで、床に窪みがある簡単なもの。
当然パーテーション等もなく、仮に看守がいたとすれば全て丸見え。
想像するだけで悍ましかった。
(アキ…、ヨル…、みんな…、今どうしているの…?アキはちゃんと眠ることができるかしら…。)
先ほどの検査は思っているよりも心労をきたし、一息ついたところでドッと疲れが来てしまう。
目を瞑ると、屋敷の獣人達のことに想いを馳せた。
兎の獣人は種自体が数少なく市場価格は高価であり、兎耳が可憐であることから、貴族の性奴隷として人気があり、アキもその一人だった。
リズベットが半ば強引に買取り、屋敷に迎えた初めての獣人となった。
男の汚い欲望を受け続けた記憶からベッドがトラウマになっており、リズベットと一緒でないと眠れないため、毎晩を共にした。
(アキと一緒に寝てることがヨルにバレた時は…、ふふっ、あの時は大変だったわ…)
ヨルは元々スラムのギャングのリーダーをしていたらしい。そのスラムも法制定後は一網打尽にされ、すべからく奴隷にされてしまったとのことだが。
ヨルは雑種の犬獣人であり、珍しいものでもなく、奴隷として売られては、あの気性で折檻され再度売りに出され…を繰り返していたらしい。
いかに安価で取引される犬人だとしても、ヨルを買った時は相場の半額以下だった。
ヨルは普段は素直で言うことを聞いてくれるけど、嫉妬深い一面があった。
「アキばっかりズルい!」「私がリズベット様の1番なのにっ!」大きな声で屋敷で騒ぎ、その夜以降、3人でベッドで寝ることになった。
「一人では大きすぎるベッドでしたが、3人だと狭かったわ…。でも、暖かくて、幸せだったわね…」
徐々に瞼が重くなってきたところで、看守官の大きな声で目が覚める。
接見室に通されると、特別名誉国民の資格を持つ、獣人弁護士がいた。
獣人の身でありながら、身分を落とさずにいられるのは類い稀な才能があるからこそ。
アオトもまた優秀な弁護士であり、信頼に値する相手だった。
しかし、どうも言い分がおかしい。
罪を認めろ、と柔らかく、しかしはっきりと伝えてくる。
やってもいないことを認めることなどできない。
「アオト、貴方こそ何を言っているのですか…?国家転覆を謀るような真似はしておりませんし、であれば証拠もないはずです。恐らく、私の獣人保護活動を毛嫌いした他貴族の嫌がらせでしょう。きちんと法に則り、裁判を受け、説明を行えばすぐに疑いは晴れるはずです。」
「獣人を都合のいい奴隷や家畜とするこの国こそが罪を認めるべきです。彼らは同じく言葉を介し、同じく痛みを覚え、同じく友愛を持ちます。アオト、貴方だってそうでしょう?それなのに、人間とは異なる、下等な存在だと誰が決めつけることができるの?」
自分は間違ったことをしていない。
断固たる信念があるからこそ、アオトの説得にも首を縦に振らなかった。
「人権の剥奪…?獣人を使用人として雇うことが罪になるはずがありません。実質は使用人扱いをしていなかったことが問題になっているのですか?この国の法に則るのであれば、獣人よ所有者である私がどのように扱おうが私の自由でしょう?」
これは冤罪。リズベットが大人しく連行に従い、悍ましい身体検査を受けたのも、ありもしない疑いを晴らすため。
やってもいない罪を認めることなどできなかった。
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