「は…?警察…?獣人…じゅりつ…?えっと、なんですか…?」
執事服に身を纏い、門の前に立つ獣人。
男装をしているが、中性的な見た目なだけで雌である。
門兵の仕事は屋敷外に長時間身を晒すため、雌であるとちょっかいをかけられやすいことから、リズベットが用意した服装。
リズベットの外出時の護衛や門兵の仕事はある程度武の心得を持つ獣人が担当することになっており、この門兵は奴隷商ムラタの所を出入りする際に付き従っていたヨルという犬人。
「あー…、えっと、当主は現在外出していまして…。訪問があった旨伝えますので、今日はお引き取り願えますか?」
(リズベット様…、変なことに巻き込まれてない…?)
獣人保護の活動は陰口を叩かれることはあれど、表立って妨害されたことはない。
これは妨害の一種なのかも不明だが、このまま通すわけにもいかなかった。
「嘘をつくな、ケモノめ。」「獣人の分際で口答えをするな」「リズベット・コーナーがいることは分かってきている。さっさと『女狐』を出せ!」
クロダと名乗る男の部下が口々にヨルを非難する。それについては困り眉を笑みを浮かべていたが、リズベットを『女狐』と称された瞬間に顔つきが変わった。
「今、お嬢様を愚弄したか…っ!?誰を逮捕するって…?もう一度私の前で言ってみろッ!!」
愛するリズベット、女神のように慕っているリズベット。
彼女に失礼な口を効く者は到底許せなかった。
女狐と言った男の胸ぐらを掴んで睨みつけるが、背中にチクっとする痛みがあったと思えば、全身に強い衝撃を覚え、視界が真っ白に染まっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「さあ、今日の授業を始めるわ。今日はみんなの名前を書いてみようね。」
屋敷には様々な年齢の獣人がいる。制限法により、幼くして家畜となった少女。獣人差別により学校教育が受けられず、大人になった今も文字が読めない女。
いずれリズベットの元を離れるにしても、文字を覚えさせることは待遇の向上にも繋がるため、こうして定期的にリズベットが先生として授業をしていた。
しかし、窓の外から門兵であるヨルの怒号が聞こえる。
「何かしら…。ヨ、ヨル…っ!?」
窓の外から正門を見てみると、ヨルが男に掴み掛かり、何かを撃たれた様子が見えた。
地面に伏し、激しく痙攣している所を見ると、電気を使った制圧銃だろう。
ドレスの裾をつまみ、急いで駆けて玄関に向かう。
「な、なんですかっ、貴方達はッ!ヨルに何を…っ!?」
正門に駆けつけたリズベットに突きつけられたのは警察手帳、そして逮捕状。
王族の血を引くリズベットに対しての逮捕状は、決定的な何かを握っていることを意味するが、リズベットには思い当たる節がなかった。
「リズベット様…!」「ヨルを離してッ!!」「よくわかんないけど、に、逃げてっ!お嬢様っ!」
騒ぎを聞きつけた使用人の獣人たちが状況を飲み込めず、口々に叫ぶ。
それをリズベットは手で制し…
「わかりました。出頭に応じます。…、貴方達は大人しく待っていてちょうだい。やましいことはないのだし、逃げたりする必要はないわ」
(正式に逮捕状まで出ているのは気になる所だけど…。ただ獣人を使用人として買うだけで、獣人国家樹立の首謀者扱いはありえないわ…。どういうことかわからないけど、抵抗して逃げられるわけでもないし…。まずは大人しく従い、彼らの思惑を確認しないと…)
両手を差し出し、手枷がかけられる。
リズベットはこの時点では、疑いを晴らし、屋敷に戻る腹積りでいたが、メイドの獣人達にも手枷がかけられるのを見て、表情が青ざめる。
「な…っ、彼女達は関係ないでしょうっ!?やめてっ、乱暴にしないでくださいっ!証拠品って…、獣人は物ではありませんっ!私の家族に触らないでっ!」
リズベットにはあえて伏せられた『所有する獣人の押収』。手枷をつけられ、身柄を拘束されたリズベットになすすべなく、荒々しい手つきで次々に獣人達が確保されていった。
※元投稿はこちら >>