見知らぬ男性とのメールがこれほどまでにドキドキするものだとは思わなかった。
あの日、間違って送られてきたメールを見た瞬間から、こうなる事を望んでいたのかもしれない。
でなければ、わざわざ間違いを知らせるメールなどしなかっただろう…。
「まさか私が…公園の駐車場でこんな事するなんて…。」
スカートは捲れ上がり、脚は開いたまま。
その奥には破られたストッキングの裂け目から薄いピンク…その中心には色濃く変化した下着を晒したままにメールを愉しむ姿の私。
あんなにも変態的なメールを送る主。
始めは軽蔑していたはずなのに…。やり取りを重ねるうちに礼儀をわきまえた紳士と考えるほどに勝手な人物像を創り出してしまっているのかもしれない。
「私と…この男性だけしか居ない…。」
そう思い込まされ、心の奥深くに眠っていた性癖や嗜好までも呼び覚まされてしまうような言葉の数々…。
だからこそ…。
『無茶苦茶にされてみたい…。』
『辱めて欲しい…。』
『普通ならあり得ないことを味わってみたい…。』
そんな告白すら躊躇せずにできてしまうのかもしれない。
そしてメールを最後まで読むと会社に連絡を入れて、今日はこのまま直帰する旨を伝えると、車を走らせショッピングモールへと向かう…。
≪今…。ショッピングモールに着きました…。会社には直帰する連絡を入れたので、これからランジェリーショップに行きます…。≫
こうメールを打ったところで下着を買いに行く目的を思い出した。
下着を汚してしまったから…。それは単なる言い訳に過ぎない事はわかっていた。
本当の理由は…。
≪男性に見せる為の下着を…。そう…その男性に気に入ってもらえるような下着を買いに行きます…。いつもの私が身に纏うような…可愛らしい下着ではなくて…。
貴方に見せる為の…。貴方に気に入ってもらえるような下着を…探しに行きます…。≫
私の中には既に見知らぬ男性の存在が芽生え、確実に私の意思をコントロールし始めているなど意識することもなかった…。
しかしその言動は確かにメールを交わす見知らぬ男性によって支配され始めていた…。
普段、下着を購入するショップの前を通り過ぎ、通り掛かる度に横目でチラッと眺めるだけのショップの前に立っていた。
店先にも原色中心の眩しいほどの派手な下着が並ぶショップ。
奥を覗き込むと、店先とは違う恥ずかしいまでのセクシーなデザインの下着が並ぶ。
『こんな店…普段の私なら…絶対に入れない…。』
尻込みしてしまうほどに敷居が高く感じてしまう。
見た目も地味で真面目にしか見えない私にとって、似つかわしくない店と言えるだろう…。
『でも…今日はいつもの下着を買いに来たわけじゃないの…。
男の人に見せる為の下着…。男の人に気に入ってもらえるような下着を買いに来たの…。』
今までの私なら店に入るどころか立ち止まる事すら叶わなかったであろうランジェリーショップに足を踏み入れていく…。
すかさず店内からは男の人の低く落ち着いた声で…。
「いらっしゃいませ…。」
まさか男性店員が居るとは思ってもみなかった私は、一瞬怯んだように立ち止まるものの、何事も無かったかのように奥へと踏み込んでいく…。
『表にある下着も派手だったけど…。コレって…下着の役を果たすのかな…?』
私の周りには眩いほどに煌めくセクシーなデザインの下着が溢れ、透けているもの…極端に面積が少ないもの…。大事な部分を隠すことさえ叶わないもの…。
どれを選んで良いのか…。どれを選ぶのが正解なのか…。
戸惑いを隠しきれず圧倒されたように立ち尽くしてしまう…。
『どうしよう…。こんなにたくさんセクシーな…。いいえ…イヤらしいデザインがあるなんて…。
どれを選んだら良いのか…。どうしよう…。』
選ぶどころかどうしていいのかもわからず立ち竦む私は、その場でスマホを手にすると助けを求めるかのようにメールを打ち始める。
≪今、いつもは入ることのないランジェリーショップに居ます…。
派手…と言うより…セクシーな…。いいえ…イヤらしいデザインの下着がたくさん…。
下着ってこんなにたくさんあるんですね…。
どれを選んだら良いのか…頭の中が混乱してしまいます…。≫
メールを送ると店内をゆっくりと見て回る。
色取り取りの様々なデザインに戸惑いや躊躇いを感じながら歩く私を先程声を発した男性店員の視線が追い掛けてくる。
ランジェリーショップで男性からの視線を感じたことなど今までには無かった。
それだけでもドキドキしてしまうのに、これから男の人に見せる為の下着を買おうとしているだけで、私の心と身体は昂りを感じてしまう…。
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