何かしらの心境の変化があったのか、みほは長く伸ばした髪の毛にばっさりと鋏を入れたらしい。
その理由を明確に話はしなかったが、近々の自分たちのやり取りが少なからず影響していることは、わざとらしくも含みのある文面から察することができた。
あれから、みほの中で彼女とのやり取りはあったのか…。
みほ自身から、彼女とのやり取りについて触れてくることは今まで一度もない。
「まぁ、わざわざこちらから話題にするようなことでもないか…。」
仕事をリモートに切り替えれば、割と自由な時間で仕事を進めることができた。
別段、取り込んだ仕事の詰め方はしていない。
みほ…そして、しおりの動画を眺めながら、そんなことを考えていた。
男は、クロミホを自称する、みほの別人格なるものを、「ミホ」あるいは「クロミホ」と呼称することはなかった。
会話の中でも、彼女のことは一転して「君」という表現で通している。
男にとって、クロミホ…は、みほではない。
使えるものは利用するが、邪魔するなら…それが内なる人格でも関係ない、排除するだけ。
しおりが必死にみほを守ろうとするのは理解できる。
それを、内から出てきた別の人格になど邪魔をさせるわけがなかった。
対してしおりにはどうやら生理が着ているよう。
みほからのプレゼントがよほど嬉しかったのか、些細なことでさえ話しかけてくれる。
しおりの真理を探るために仕込んだ盗聴器…盗撮カメラだったが、結果として、より深くみほへの愛情を知ることになった。
性的快感に溺れ、快楽の沼に自ら足を踏み入れようとするみほがおかしい、と考えるとすれば、
しおりは正常なのか…?
男はそうは思わなかった。
もしみほが、普通だったらどうだ…。
普通に一番仲の良い友達の感覚でしおりに接していたらどうだ…。
おそらく、しおりが想像していた通り、ひきつった表情を見せながら、後ずさられるような瞬間があったかもしれない。
あるいは、男からのアプローチで眠いっていた異常な性癖を呼び覚ましたことが…、結果としてしおりを受け入れることにつながっただけかもしれない。
彼女…いうように、男は自分が半強制的にみほにアプローチした自覚はある。
性的な快感を強引に送り込み、正常な思考回路をショートさせた自覚はある。
そう、みほは確かに男によって「壊された」。
しかし、しおりのみほへの行き過ぎた愛情は…、そうではない。
もともと持ち合わせていた、欲求。
持ち合わせたものの異常さで比較すれば、圧倒的にしおりなのだ。
無邪気なだけの小動物が獰猛な獣に変貌したのがみほだとするならば、しおりは元々獣…、それが少し臆病なだけの…、獣。
「そういえば…。」
そんな二人のことを考えていれば、少し忘れていたあることが男の脳裏によぎる。
そう…、みほ同様にしおりにも送っていた手紙のことだ。
あれ以降、早々にみほとのやり取りが続いたため、すっかり記憶から抜け落ちていた。
『君がこれをに気づく頃には、何とか家には帰れている事だろう。
約束通り…、おじさんからみほに手を出す…なんてことにはなっていないから安心して…。
よほど、気を張っていたのだろう…。
気を失ったように眠っていたね…、一緒にいたのがみほちゃんでよかったじゃないか。
しおりちゃんは…、今日のことをどこまでみほちゃんに話すのかな…?
それとも、全く話さないのかな…?
いずれにしても、だ。
「今日は」、君との約束に免じて…いや、約束だから身を引いてあげよう。
でもね…、それは今日だけの話だ。
君が、代わりになるんだろう…?
そう言う約束だったよね…?
なら、その約束が果たせていないとき…、それはおじさんも約束を守らなくていいとき…そう言うことだ。
くれぐれも…、この手紙が君の、しおりちゃんの目に早々に触れることを祈っているよ。
じゃなきゃ、せっかく身を挺して守ったみほちゃんなのに…。
「君がこの手紙に気づかないせいで」、今度はみほちゃんが犠牲になるかも、知れないわけだから…。
おじさんの連絡先は以下の通りだ。
用があるときは連絡しておいで…。
誰かに相談する…?しないよね、だってそんなことができるなら、とっくにしてたはずさ。
それじゃ、また会えることを楽しみにしているよ。
〇月×日
しおりちゃんへ。』
「2週間…くらい経ったか…。
もう手を出さないと思っているしおりちゃんからすれば…約束を守っていないことに…なっているな…。
とはいえ、連絡を先にしてきたのはみほだ…。
全部が全部、約束を破っているわけじゃないさ…。
それに…君がすぐ手紙に気づかなかったのが悪いんだろ…?
なぁ…しおり…。」
【不安に思わせて申し訳ありません。
そんな突然消える、みたいな真似はしませんよ、よほどのことがない限り。
正直、少し残念な返答ではありましたけどね…。
そこは私の描写力の低さ、想いの弱さ…だったと振り返ることにしています。
そこまで話せるほど、現時点では仲良くはない。これが私の現在地、そう認識をするようにしています。
自然に話せるようになる日、は来なくていいと思っています。
半強制的、そうですね…。恥ずかしくてまだ無理なはずなのに…、答えなきゃ…そう思わせるような感じがいいでしょうか。
もし言わなかったせいで、返事がなくなったら…それは仕方ないと諦めますか?
それとも、言うから返事をくれ…と言うのでしょうか…?
楽しいですね…。
さて…、本編の方ですが。
時系列的に、みほちゃんへのアプローチ云々が起こりうる前、に送っている手紙ですので、その手紙でどうこう、ということは起こりづらい内容になっていると思います。
とはいえ、どう考えてもみほにアプローチをかけている可能性が濃いのはその男だけ。
ともすれば、約束が違うじゃないかと憤るのも無理はない。
そこは、貴女からのアドバイスに添って、あくまでこちらからのアプローチはしない。
という、卑怯な逃げ道で作っていますそして…、手紙に気づかなかったことで、事態の悪化を招いている…と。
大枠で見れば、次はしおりちゃんとのやり取りが少し続く感じにはなりそうですが、そこはお任せいたします。
殺意だけをひたすらに向けるもよし…、自分に矢印を向け…、男の都合の良い言い分に振り回されるも良し。
みほとしおりの間で、男の存在を改めて話題にすることも含めて、いつものように、貴女の描きたいように描いてくだされば、合わせますので。
足りないところは補います。
もう足りないでしょう?ただのおなにーでは。
必要ですよね…、壊れるためのおかずが。】
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