「ふわ…ぁっ、んん…、そろそろアレクが出発する頃ですね…。」
鳥の囀りが聞こえてきた頃、ようやく空が明るくなってきた時刻に目覚め、自身の体温で暖かいベッドから這い出た。
簡単に髪に櫛を通した後、出発の準備をしているアレクの元へと向かった。
「いいえ、昨晩は色々付き合わせてしまいましたし、今日はだいぶ調子がいいようですので。」
馬車に荷物を積み込み終えたアレクに声をかけ、狼狽える彼に微笑みかける。
見送りはしたことがなかったが、長いこと抱えていた悩みを打ち明け、夫婦となった秘密を共有する相手として、更に心を開き始めていた。
「今夜のうちに…?いつもはもっとかかりますのに…、お待ちしていますが、どうか無茶はなさらないように。怪我や野盗など、くれぐれもお気をつけくださいね」
アレクのゴツゴツとした男らしい両手を握りしめ、まるで小煩い母親のように言葉を投げかける。
サリーナとしては心配からくるものだが、アレクは鬱陶しいように感じるだろう。
そうしてアレクを見送り、一人屋敷に取り残されたサリーナは戸締りをした後、一人剃刀を手にして脱衣室にいた。
「ああ…、知らなかったとはいえ、とんだ無作法を…。肌を見せることなど頭になく、処理については頭にありませんでしたね…。剃り落として、神にお許しをいただかないと…。」
アレクの虚言をしっかり信じ込み、毛の大半をハサミで切り落とし、ソープを泡立てて剃刀で剃り落としていく。
柔らかい羽毛のような毛質であり、簡単に剃り終え、すべすべの地肌が露わになった。
「アレクは今夜にも帰ってくると…。お祈りした後は、お料理に挑戦してみようかしら…。普段の礼や、我儘を聞いてもらった礼…、こんなものでは足りないかもしれませんが、少しずつでも…。」
そのまま礼拝堂に行き、お祈りを捧げる準備をしていく。
昨夜深い眠りにつけたおかげもあり、体調はだいぶ良好。
数時間かけて儀式の際の無作法を詫び、許しを乞いた。
料理など貴族や王族の妻が行うものではないが、教養としてある程度習っており、アレクへの普段の感謝を伝えるべく、キッチンへと向かった。
アレクの邪な思惑には気が付かず、当の本人は呑気なよのだった。
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