私は、そのままクリスティア家で世話になった訳てすが、ここへ来るまでの経緯はおろか、自分のことを何も話せませんでした。
藁にも縋る想いでかこクリスティア家の領地を目指したにも関わらず、私の人間への不信感は根深かったのです。
自分の素性すら話さない私に、リズベット様はどこまでも優しく接してくれました。
意識を失い目覚めた直後に差し伸べられた手を払い退けたにもです。
当主として忙しい業務の傍ら、わざわざ時間を割いては私の部屋に顔を出しては様子を見に来てくれました。
リズベット様が私の知る人間とは違うことは、これまでの事で十分過ぎるほど分かってはいました。頭では理解できていても、父と母を捕らえたあと私と弟に向けられた憎悪に満ちた目が脳裏にこびり付いており身体が拒否反応を示すのです…
そんな私でしたが、怪我が治るころには日常会話ができる程度まできを許すことができるようにはなっていました。
これは、頑なに殻に閉じこもったままの私に根気よく接してくれたリズベット様のお加減でした。
「ほ、ほんとですか?僕をこのお屋敷で?」
リズベット様は、屋敷で働かないかと言ってくれました。
怪我が治れば屋敷を出されると思っていた私にとってこのお話は願ってもない事で、私は迷うことなくこのお話をお受けすることにしました。
屋敷での私の仕事は、手の足らない部署の手伝い…所謂雑用係で決して楽な仕事ではありません…時にはキツく叱られたりもしましたが苦ではありませんでした。
屋敷で働く人たちは、私が獣人であるにも関わらずひとりの「人」として仲間として扱ってくれたからです。
ただひとり、いつもリズベット様に付き従う犬族のシオンさんだけは、私に対して壁を作っているように感じていました。
シオンさんのリズベット様に対する気持ちの大きさは、ほかの使用人たちからも聞かされていたので、私がリズベット様の手を払い退けた事が許せないのだと思っていましたが、私が解放戦線のメンバーだったことを疑われているなどとは、この時の私は考えてもいなかったのでした。
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「隊長…その顔は、またダメでしたか?」
「ああ…俺の気持ちを分かっていながら話を上手く逸らすだけで、なかなか色良い返事を聞かせてはくれん…俺の目溢しのおかけで何事もなくいられるのにな…あの女は…」
獣人規制法の元、帝都に本部を置いた特別憲兵団は、東西南北4方面に方面隊を設置し、その近隣領地を監視と取り締まりすることした。
いずれも高位貴族の優秀な子息から選ばれたが、クリスティア家のある北部方面隊にはダーウェルという男が着任した。
ダーウェルの家は、商売が上手く高位貴族の中でも群を抜く潤沢な資金をようしている。噂によれば違法な奴隷売買にも手を染めているらしい…
ダーウェルは、そこの三男坊で、優秀な2人の兄とは違い、金にものを言わせ女や酒、ギャンブルと遊びほうけるどうしようもない男だ。
世間体を気にしたダーウェルの親は、政府高官に賄賂を送り北部方面隊長の座を買い与え体裁を繕ったのだ。
今、隊長室て会話する2人は、ダーウェルとその副官ロナウドである。
ロナウドは、ダーウェルの親がつけた副官であり、いつもニコニコとした表情をしながらも、その目には冷たいものを秘めた頭の切れる男だ。
「クリスティア家には、金で買ったネズミを送り込んでありますから…そのうちいい情報も得られることでしょう…今しばらくお待ちください…ダーウェル様…」
ダーウェルがリズベットを見初めたのは、北部方面隊の隊長としての就任式のパーティーだった。
親から体よく帝都から追い出される事になり不機嫌だったダーウェルだったが、近隣領地の領主を招いたそのパーティーでダーウェルはひと目でリズベットを気に入ったのだ。
腰まである長い金髪は艷やかに輝き、年相応のまだ幼さの残る顔とアンバランスな熟れた身体…帝都で遊んだ女たちが霞むほどだ。
この日からダーウェルはリズベットを手に入れようと躍起になった。
視察だと理由をつけ度々クリスティア家を訪れ、その傍らでクリスティア家の事をロナウドに調べさせた。
調査によれば、クリスティア家のリズベットは、国の獣人に対する方針とは真逆を向いており、法に照らせば即時に制裁を加えることもできるほどだ。それでもクリスティア家は皇族との深く長い繋がりがあり簡単に手出しはできないことも分かった。
言い逃れができない確たる証拠を手にするには、まだまだ時間がかかることを考え、ダーウェルはリズベットを口説き落すことにした。
自分が手心を加えていることをほのめかせながら、時には花束を手土産にするも、下心丸出しのその態度を上手く逸らされ続けていた。
私がクリスティア家で働き出したのは、ちょうどダーウェルがリズベット様の態度に苛立ちはじた頃でした。
私の存在がリズベット様に多大な迷惑をかけることになるとは、この時の私は考えてもいなかったのです…
遅くなりました。
色々考えていると なかなか上手く話がまとまらなくて…
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