「い、いえ、緊張などしておりません…っ。アレクに相応しい妻になるために、私頑張りますっ」
鼻息荒く、意気揚々と長い廊下を進むサリーナだったが、側から見ても様子はおかしく、緊張を誤魔化すようだった。
アレクの手を握る手には手汗が滲み、サリーナにしては力強く握られている。
(…あまりにも下手で、お母様に失望されてしまったらどうしましょう…。出来るようになるまで、結婚が取りやめになったりとか…。)
メイサが「自分もアレクに犯されたい」という邪な思いで、「ヴァレンシュタイン家に伝わる秘技」を伝えるなど思いもせず、真剣に受け止めたサリーナ。
最初こそ喜んだものの、「これは結婚のための審査なのではないか」「妻に相応しくないと思われたら、結婚できないのではないか」など、グルグル考えてしまい、妙に緊張してしまったのだった。
「はぁ…、私ってホント馬鹿ね…。サリーナをこんな事に付き合わせてしまったわ…。」
ネグリジェのような部屋着用の薄いドレスを身に纏い、下着も夜伽用の物を用意したメイサは、ソファに深く腰掛けながら、深く後悔していた。しかし、一方で、もうすぐにアレクに抱かれると思うと、下腹部が熱くなってたまらない。
エルフの血がもたらした奇跡のような美貌と、代々伝わる性技を使い、夫となった者に性奉仕し籠絡するための技。
力が弱い貴族が家を守るために生み出した裏の事情だが、レイウスはその事を密かに知っていた。
だからこそ、サリーナを出産した後はメイサに極力手をつけないようにしていた(年のせいも大きいが)。
それは、「君が身体を使わなくても、君を本当に愛している」とどうにか伝えようとしていたのだが、それがこんな事態を招いたとは夢にも思わないだろう。
扉のドアがノックされ、二人がやってきてしまった。
「お母様、今日はよろしくお願いします。」と丁寧に頭を下げるサリーナ。緊張していて、声が上擦っていて、なんだか微笑ましかったけれど、アレクの手を握っているのを見て、少し苛立ちを覚えてしまった。
私の愛娘を誑かした張本人ではあるが、どうしてもこの男を追い出せない。
広く大きなベッドに我が物顔で横になるアレクを尻目に、サリーナの手を取って、金調をほぐすように優しく伝えた。
「サリーナ…、まずはドレスを脱いで…。夜伽の際には、女性が先に服を脱ぐの。これまでの主従関係を無しにしろとは言わないけれど、夜伽の際は奉仕の面があるから、妻が基本的に動くのよ」
「は、はい…っ!」
うんうん頷くサリーナ。本来であれば覚えなくとも良い、性奉仕のための知識を覚えていってしまう。
罪悪感に駆られつつも、下着姿になった後、ベッドに横たわるアレクに添い寝するように、身体を密着させた。
「まずはキス、よ。口付けをして、身体を密着させて…興奮を誘うの。…やってみせるわね。」
そうして、アレクの身体に抱きつくように密着させ、胸の谷間に腕を、太ももで足を挟んで股を擦り付ける。そして、横から唇を重ねようとするが…。
「…約束は守ったんだから。ちゃんと満足させなさいよね…。」
と、サリーナには聞こえないように、アレクに小声で呟いて、唇を重ねた。
「ちゅっ、ん…っ、ぁむっ、ん…っ」
「…わぁ…っ」
本来好きな男が他の女とキスをするなど嫌なはずだが、敬愛する母がサリーナのためにしていることであるため、当然気になることはない。
それよりもキスの舌の使い方や、身体を使った欲情のさせ方など、むしろ勉強になるものだった。
「…んっ。…こんな感じよ。口付けは…、その、フェラチオ…をした後はあまりしないから、少し長めにするの。」
「では、私もやってみますね…っ。アレク、失礼します…っ。」
ベッドの端に立っていたサリーナだったが、ベッドに上がり、メイサの逆側に添い寝する。
母を真似るようにして、腕に胸を押し付け、足を絡ませあう。スリスリ身体を擦り付けた後、目を閉じて顔を近づけていく。
アレクに抱きついたまま、怒りと興奮が混じり合う複雑な表情をしたメイサと、目を閉じて一生懸命舌を絡ませて唾液を送り込むサリーナ。
二人がが同じ視界にあるアレクは幸せを実感していた。
この世の富豪がどんなに金を積んでも、この二人との夜は過ごせない。
例えそれが雲の上の存在であるレイウスであっても。
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