「…っ、……。」
決して綺麗とも言えない、なんだか変な臭いがする地下の部屋。
どん底のような表情で時を待ち続けたたメイサは扉が開く音で、まるで小動物のようにびくんっと驚いて顔をあげた。
メイサは店主に向かい、ハイライトを失ったような虚な瞳を向け、じっと話を聞いた。
ストリップ、見物小屋、娼館…。
民の娯楽であるそれらの存在は知っているが、詳細については知らない。何故なら住む世界が違うから。
しかし、今は当事者となってしまっていて、説明を聞くうちに、ステージの上の自分を想像してしまって足が竦んで震えてきてしまう。
自己紹介?身体のサイズ?
個人のプライバシーを見せ物にされるために晒すの?
その上で脱衣だなんて信じられなかった。
元々そういう職の女性のことは差別的に見たことはなく、きちんと理解を持っていた方。
色々な事情だってあるし、需要があるのならそれは立派な仕事。
しかし、それをする側になったのなら、もはや理解どころではなく、尊敬さえ覚えてしまう。
(嫌、怖い、こんなの無理よ…っ。リズのイタズラだったり…、し、しないかしら…。きっと、ステージに行ったら客はリズだけで…)
怖くてソファから立ち上がれないメイサの細い腕を引っ張り上げられ、ステージへと連れて行かれる。
入り口から覗いた光景によって、淡い期待は打ち砕かれた。
ホールの中は観客がぎゅうぎゅうに押し寄せていて、貴族のストリップを待ち望んでいるのだった。
ギョッとして固まったメイサだが、不意に背中を押され、高いヒールをよろめかせながら、壇上に登場する。
そうしたところ、暗闇のステージに一つの大きなスポットライトが当てられ、今日の出演嬢が衆目に晒された。
「ひゃぁっ!?…ぁっ、ぁっうぅ…っ」
こんなところに堕ちてくるなんて、年増の貧相な女だろう、とどこかで思っていた観客は良い意味で裏切られた。
小柄で可愛らしいうえ、見るからに高価なアクセサリーを携え、まるでパーティから抜け出してきたかのような美しいドレス。
そのうえ、なんと言っても美しい顔立ち。
恥ずかしそうに顔を伏せがちで、ドレスの裾をギュッと掴むいじらしい仕草は、早くも観客の心を掴んだ。
実際メイサはじっくりまじまじと顔を近づけてみなければ、顔のシワなどほとんど見つけられず、メイサは経産婦であることなど観客の誰もが想像もしていなかった。
一方でメイサは、心の準備もできないままにステージに立たされた上、ギラついたような好奇な視線に耐えられず、顔を上げられなかった。
(こんなところに本当にリズがいるの…?…、いや、それよりも、挨拶…、自己紹介…?とにかく名前は、偽名にしないと…。ああ、沈黙が長くて、変な間が…っ。なんか言わないと…っ)
顔を伏せたまま動かないメイサ。スポットライトが当てられたまま、無言で数十秒が経ってしまった。みな、メイサの第一声を待ち望んでいる。
「…よ、よろしく、おねが…します…。なま、名前っ、名前は…メ…、メイ…、えっと、メリッサ…です。その、あまり身分は、言えませんが、貴族…、ですが、お金がなくて、ここにきました…。」
普段の明朗快活で天真爛漫な明るい声色ではなく、顔を伏せたまま、ボソボソと呟く声は、前列の客くらいにしかまともに聞こえなかった。
そのまま口をつぐんでしまったが、目の前の客から、「身体のサイズも言えよ、ストリップの常識だろ?」と野次を飛ばされ、店主の説明を思い出した。
どうせ分からないのだから適当に言えばいいのだが、もはやメイサにそんな余裕はなく、ドレスの採寸の時のことを思い出してしまった。
「身長は150センチで…、その…」
スリーサイズは最もデリケートな情報、言い淀んでしまった。観客の視線が怖く、チラッと目線だけ上げたところ、おそらくVIP席である奥のソファに座るリーゼロッテと目が合った。
まるで査定するような鋭い視線に気圧され、目を逸らしてしまった。
「その、上から、…、89、60、90…です…。」
その瞬間、ステージが動き出し、ゆっくりと回転を始めた。事前に説明がなかったので転びかけたものの、なんとか持ち堪えた。
囲うように見つめる観客に隅々まで見せられる装置だが、リーゼロッテに弱みを握られている以上、もはや観念するしかなかった。
(と、とりあえず踊る…っ、それから…、それから…っ)
ゆっくりと曲に合わせて踊り出すメイサ。
幸いにも流れ出した曲は古くから親しまれているクラシックのアレンジであり、メイサも即興で合わせやすかった。
高級ストリップでもない限り、ストリップにおいてダンスは添え物程度であり、本命は脱衣。
しかし、メイサのダンスは、手指まできっちりと揃えられていて、なんとも美しい。
教養を感じさせられ、その美貌と相まって、場末のストリップとのミスマッチさが、観客に特別な興奮を生んだ。
いつまでも踊ってはいられない。
回転するステージからリーゼロッテと何度か目が合い、その度に圧を感じた。要は「モタモタせずに脱衣を始めろ」と。親友と信じていたリズの冷ややかな視線と、唇に浮かぶ微笑が胸を締め付けた。
やがて観念したように、まずは深く息を吐き、そして、細くて白い指で濃紺のオーバードレスを肩から滑らせた。
重たい生地がステージに落ち、散りばめられた宝石が眩い光を放ちながら波紋のように広がり、パサリと音を立てた。この時点でもはや観客は流れている曲など耳に入っておらず、メイサを凝視していた。
そうして現れたのはロイヤルブルーで眩いドレス。雪のように白い肌と、眩い金糸のような縦ロールパーマのブロンドヘア。誰もが唾を飲み込み、ストリップ劇場にあっても、高貴ささえ感じさせる姿であった。
金糸で繊細な刺繍がほどこされたロイヤルブルーのドレス。
震える指でホックを外し、ボタンを一つ一つ、丁寧に外していく。
ボタンが外れるたびにはだけた布から覗くスベスベの肌がきらめいて、百を超える観客の胸をざわつかせる。
(恥ずかしくて、顏から火が出そう…っ。このボタンを外したら、このドレスは…。そうなれば後は、コルセットと下着…。こんな大勢の前で…)
羞恥に頬が赤く染まり、唇を噛んで堪える。
背筋に冷や汗が伝い、体温は異常に熱く、燃えるよう。
たとえ目を瞑ったとしても感じてしまうほどの、一斉に集まっている観客の視線。
それらは躊躇する様子であったが、観客からすれば焦らすような演出であり、息を呑んで見守っていた。
最後のボタンを外してドレスが足元に落ち、オーバードレスと重なって、雪のように積もるのと同時に、どよめきが会場に響く。
コルセットで締め付けられた腰は蠱惑的な曲線を描いており、さらにはシルク製の下着があらわになった。
メイサを守る最後の砦に、これからのことを観客は期待し、身を乗り出して見つめている。
緊張と羞恥から汗ばんだ身体と香水の甘い香り。
それはもはや虫を惹きつけるフェロモンであり、すでに観客のほとんどが勃起していた。
「はぁ…っ、はぁっ、ぁ…っ」
緊張と羞恥で心臓は跳ね上がり、呼吸も乱れる。頬は真っ赤で、視線も定まらない。
そんな中で、コルセットの紐に指を添える。
(もう、本当に全裸になっちゃうわ…っ。リズ…っ、もういいでしょ…っ!もうやめにしてちょうだい…っ!)
目をギュッと瞑り、怯える小動物のような表情のメイサ。
可愛らしく同情を誘うようではあるが、最前列の客の数人は気がついた。
メイサのショーツが、濡れそぼって黒くシミていることに。
メイサも自覚していない、エルフの血の特性。
荒い呼吸や発汗、頬の赤らみは、羞恥や緊張のほか、興奮によるものでもあり、危機的状況に子宮が疼き、マゾ性ともいえる性質。
【大変お待たせいたしました。
そうですね、リズベットの側近の獣人(初めて保護した獣人)とか、今回のメイサのように、サブ的に辱められる存在とかも面白いかも…?
婚約者がいたり、街の近所の人たちからは愛されていたりとか、そういった人たちの前で辱められたり…とかもいいですね。】
※元投稿はこちら >>