「…かっこいいなあ…」
「…え?私に何か…?…ああ、貴女はメイサ様。お隣同士ですわね。」
リズとの出会いは、女学校だった。
吹き荒ぶ寒波により、そもそもの人口が少ない北方出身の私には、同世代の貴族の娘の知り合いはいなかった。
都市部にある女学校の寄宿舎に預けられ、不安で緊張していたが、隣に座った彼女を見て、思わず「かっこいい」なんて口にしてしまった。
高い身長、どこかボーイッシュで綺麗な顔立ち…、淑女には失礼だったと今でも反省しているけれど、当時のリズはまるで物語の王子様のようだった。
「あ、あのっ!リーゼロッテさん…、お友達になってくださいませんか?」
席が隣だった。ただそれだけ。
だけど、どこか運命のような、一生の縁になるような、そんな気がした。
たまにあの時のことを一人で思い出しては恥ずかしくなってしまう。いきなり手を握って、「友達になって」などと…、あの時のリズはとても困っただろうな、と反省してしまう。
それからは私たちは何をするにしても一緒だった。社交ダンスの練習も二人で、語学や宗教、歴史の勉強も二人で、食事やたまの外出も二人で。
それが嫌だったのかな。
しつこくしすぎたのかな。
いや、もしかしてお酒を飲みすぎて、酔っ払っていたから昨日はあんなことをしたのかな。
「あの、私実は憧れがあって…。お友達を愛称で呼んでみたいの…。リーゼロッテのこと、リ、リズって呼んでいいかしら…?」
「ふふっ、いまさら何よ、メイサ。むしろ大歓迎よ」
「リズっ、リズっ、リズ…っ!私とお友達になってくれて、ありがとう…っ!大好きよ、リズ…っ!」
初めてリズって呼んだ日。
私は嬉しくて、リズに抱きついて、何度もリズって呼んだっけ…。
あれも、全部嫌だったのかな…。
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「…嫌よ、そんな気分なんかじゃないわ…」
アレクの私室はもはやメイサの部屋になっていて、目が覚めても篭り切り、水や食事も摂らずにベッドの上で横たわり続けていた。
リズとの女学校時代の思い出に耽り、昨日のことは夢だったのだと思い込みたかった。
しかし、アレクがやってきたことによって、全ては現実だと突きつけられる。
メイサは部屋に篭り切っていたものの、むしろそれを好都合として、リーゼロッテは各種準備を進めていた。
メイサは本人が未だ知らないうちに、商品として扱われていた。
「…っ、…。」
(リズはやっぱり…。私の何がそんなに…。)
外出を拒否したものの、リーゼロッテの名前を出されると少し目を見開いてアレクを見て、それから俯いて頷いた。
ほとんど無理やりに水や食事を摂らされ、湯浴みを行った。
それから部屋に戻ると、すでに待機していた数人の侍女。
リーゼロッテから何か命令されているのだろうと身構えたが、彼女たちは何も知らない様子だった。
「メイサ様、お身体の具合はいかがですか?リーゼロッテ様も大変心配しておられました。お元気になられたのであれば、何よりでございます。…ささっ、こちらへどうぞ…。」
「あ、え…?え、ええ…。」
リーぜロッテのあの感じであれば、侍女たちにも酷いことをされるのかと勘繰ってしまったが、非常に丁寧に扱われ、困惑していた。
それもそのはずで、侍女たちは何も知らないどころか、リーゼロッテから「プリムローズの名に恥じぬよう、メイサをもてなし、ドレスやアクセサリーで着飾るように」と命じられていた。きっと二人でパーティにでも出席するのだと思っていたのだ。
「ドレスはいかがいたしましょう…。お好みのお色など…、えっと、そうですね…、こちらからお選びいただいても…。」
「えっと、何でも良いわ…」
「白くて綺麗なお肌に、輝く御髪…。より際立たせるためにはワインレッドの…。」
「いえ、メイサ様は高貴なお方…。強調すべく、ここはパールホワイトのドレスから…」
「それではメイサ様があまり目立ちませんわ。少し色があった方が目を引き、映えるかと…。」
「…ふふっ、皆様ありがとうございます。真剣に悩んでくださっているから、本当にお任せするわ…。」
メイサのドレスに意見を出し合いながら決める様を、微笑みながら見つめた。どこの屋敷であっても侍女たちは一生懸命であり、自分のためにあれこれ尽くす様は本当にありがたい。
(…もしかしたら、リズは私と仲直りしたいのかも…。き、きっとそうよ…。私たちは大親友なんだから…)
侍女から準備完了の連絡を受け、アレクはメイサを迎えに行った。
縦巻きロールヘアーが完成したところ、侍女たちはあまりの美しさに息を呑んだ。その彼女たちがより際立たせ、相性抜群の色として選んだのが「ロイヤルブルー」のドレス。
また、細かなプラチナチェーンにダイヤモンドが揺れるネックレスが首元を飾り、綺麗な髪の合間からパールのネックレスが揺れるたびに清楚や優雅な様を印象つける。
細く繊細な手首にはダイヤが連なるブレスレットが贅沢な煌めきを放っており、誰がどう見ても貴族であることがわかる高貴な姿。
慣れていたアレクでさえも、思わず平伏しそうになるほどの圧倒的な美貌は、かの商人に「本物のメイサ」だと証明させるのは簡単だろう。
侍女たちに見送られながら馬車に乗り込んだメイサは少し元気を取り戻していた。きっと高級なレストランなどに呼ばれ、お酒なんか飲みながら謝罪を受けるのだと…。そして自分もリズに謝罪し、和解するのだ。
そう考えていたのだが、アレクからの説明を聞いて表情が凍りつく。
(何よ見せ物小屋って…。い、意味わからない、何で、何で何で…、何でよ…、リズ…っ)
なぜ、リズはどうして…!
口を開きかけた瞬間、馬車は路地に入って停車した。
窓の外でアレクと見せ物小屋の主が何やら会話し、チラチラとこちらを見ている。
少し取り戻した元気は呆気なく失われ、青ざめたような暗い表情で、ヨロヨロと馬車を降りる。
ジロジロ、値踏みするような店主の目線から逃げるように俯き、少しだけ頭を下げた。
漂う悲壮感からは図らずとも「没落貴族」の雰囲気が出ており、身につけた高価なアクセサリーからは「かつての生活を捨てきれないバカな貴族」だと思われているだろう。
薄暗い階段を店主とアレクに挟まれて、地下に降りていく。どこか湿った、生ぬるいような、据えた匂いに顔を顰め、俯いたまま。メイサの気分としては一段一段地獄に落ちていくような、はたまた処刑台へと向かう罪人のような…、ともかく最悪な気分だった。
ショーについて説明を受けた後、控え室に通された。他に女性はおらず個室のようだ。本来はストリップ嬢に固執などないだろうが、借金に堕ちた貴族とはいえ、気を遣ったのだろう。
個室に通される別れ際、アレクにしがみつき、
「お、お願い…っ、リズに謝る機会を頂戴…っ。こ、こんなの嫌よ…っ、こんな見せ物みたいに…っ!」
懇願したが、アレクが聞き入れることはなかった。
硬く安物のソファに腰掛けながら、両手で顔を覆い、何かの奇跡が起きて、リズがこの部屋に現れ、「メイサ、冗談よ。ふふっ、驚いたでしょう?」と言ってくれるのではないか。
そんな薄く、とてもありえない可能性を妄想していた。
怖い、怖い怖い怖い怖い…。
肌などレイウス…、それからアレクにしか見せたことなどない。それを不特定多数の、その上で誰ともわからない男に金で買われ、抱かれるのだ。
まだ何もしていないのに、待機しているだけなのに、大声で泣いてしまいそうだった。
【お疲れ様です。
なんと入院…っ!
無理はなさらずにお願いいたしますね。
もしご興味が沸いてくださったのでしたら、ぜひお願いしたいです!
名前を間違えてしまった気まずさから、きちんと設定とかついてお伝えしてよかったです。
(これだけたくさん考えた過去があったから間違えてしまった…と言い訳を…)
マイペースな私のわがままに付き合ってくださる気の合うお方ですので、とっても嬉しいです。
少しずつ設定や世界観、流れとか…色々考えながら、次に繋げていきましょうか。
ちなみに前回私とやりたいと仰ってくださった、未亡人?のイメなんかは大丈夫ですか?
アレクさんのやりたいことなんかも遠慮せずに仰ってくださいね】
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