パーティーが始まる前、レイウスとメイサと共に城の正面の庭を見下ろす3階のバルコニーからサリーナは、彼女の元気な姿をひと目見ようと集まった人々に手を振っていた。
「サリーナ様っ!万歳ッ!」
「これからもお元気でいてくださいっ!」
人々の口からは、サリーナに対する敬意が込められた言葉が次から次へと飛び交った。
領主の一人娘の誕生に沸き返った街…程なくしてサリーナが不治の病に侵された絶望…街中に重くのしかかっていた影か一気に晴れ上がったようだった。
そんな人々に手を振っていたサリーナだが、その笑顔はまさに太陽のようだ。
(それにしても…すげぇメンツだな…)
パーティーが始まったが、アレクは1人会場の隅にいた。
元来、アレクごとき使用人が参加できるパーティーではない…伝染るかもしれない病気のサリーナの介抱に尽くしたことへの褒美の意味を込めて許されたことだ。
サリーナと話すどころか、その近くにも近づけない…サリーナの周りには、多くの人間が一言祝いの言葉をと列を作っていた。
国内の貴族連中はもとより王家からも第二皇子が顔を出し、他国の皇族、貴族らしき姿もある…改めてサリーナの美しさは国の内外にも知れ渡った至高の宝だと実感させられる。
そんなサリーナの全てを我がものにできたことは、まさに奇跡的と思える。
サリーナの突拍子もない申し出からはじまったことだったが、何もかもがアレクにとっていい方向へと転がっているのだ。
サリーナだけではない…熟れた極上のメイサまで、その手中に入れた。
公爵の一人娘の婿としてのその爵位を継げば、その地位を利用すれば何人もの側室を置くことも可能、気に入ったメイドも…遠目にサリーナを見ながらアレクはニヤリとした笑みを浮かべていた。
パーティーも大詰めをむかえたところでアレクはレイウスに呼ばれた。
ひとつ高い壇上の椅子にレイウスが座り、その左右にはメイサとサリーナが立つ…その前にアレクは膝をつき頭を下げた。
「アレクよ…改めてお前には礼を言う…お前を信用してサリーナの面倒を見てもらったが、本当に感謝しているぞ…城に戻った時にも言ったが、お前には褒美を与える…何か望みはあるか?金か?それとも地位か?どんな望みも叶えよう…申してみよ…」
「ありがとうございます…でも金も地位もいりません…サリーナ様を…サリーナ様をいただきたく…」
アレクの言葉に会場内は一瞬静まり返った。誰もが自分の耳を疑ったのだ。
「い、今…サリーナ様をって言ったのか?」
「使用人風情が何を…信じられぬ…」
「身分も、弁えぬ愚か者が…きっとレイウス様の怒りを買うぞ…バカな男だ…」
会場のあちこちからそんなヒソヒソ話が聞こえるが、アレクは平然としたままレイウスを見つめる。
「サ、サリーナをくれだとっ!?お、お前は自分が何を言っているのか分かっているのか!?」
普段温厚なレイウスの顔色が変わった…あまりにも無遠慮で突拍子もない望みにレイウスは椅子から思わず立ち上がりかけた。
「殿…お待ちください…お怒りはごもっともですが、ここは…」
レイウスたちの後ろにいたデオドールがレイウスを制した。
「デオドールの言う通りです…冷静になってください…」
グラベルもデオドールに続きレイウスを諭す。
「しかし…あの者は我が娘をと言っているのだぞ…」
「確かに…いくら殿が何でもと仰っても、あまりにも不躾な要求…ですが…殿は『何でも』と公言してしまわれた…ソレを無下に反故にすれば名君としての名が廃れましょう…」
側近である左右の手に諭されたレイウスだが、怒りは収まらない…
「あなた…グラベル様、デオドール様のおっしゃる通りですよ…ここは落ち着いてください…」
「なっ…キ、キミまで…」
自分同様、アレクの望みに憤慨しているだろうと思ったいたメイサから声をかけられ唖然とするレイウス…驚きに目を見開きメイサを見つめ、レイウスは大きく息を吐き立ち上がりかけた椅子に座り直した。
「メイサよ…キミはアレクの戯言に耳を貸すのか?褒美にサリーナをと言っているのだぞ?」
「そ、それは…そうてすが…」
メイサの心境は複雑だった…正直なところ、アレクのような者に大切な一人娘をやることなどしたくない…だが、アレクには不貞を働いた決定的な証拠を握られた上に、レイウスには言えない関係を持ってしまった…しかもその関係にどっぷりと嵌ってしまっている…
レイウスがアレクの要求を退ければ大切なサリーナは守ることができると同時にアレクを独り占めできるかもしれないが、言われた通りにしなければアレクの怒りを買い、不貞の証拠を明るみに出されれば破滅は確定…何よりアレクと手を切ることはあの快楽を捨てることになる…それだけは避けたい。
「ひゃっ…!ご、ごめんなさい…と、とりあえず…サ、サリーナにも話を聞きましょう…こんな話はアレク1人が言い出したのではないかもしれませんし…」
レイウスに問いただされ口籠もったメイサだが、小さな悲鳴を漏らしたあと、慌ててサリーナの話も聞こうと提案する。
メイサの躊躇を打ち消したのは、メイサのショーツの中のローターが振動を強めたからだ。
あの日以来、アレクに抱かれる時以外はショーツの中にローターは仕込まれたままで、躊躇したメイサへの警告としてアレクが手の中のリモコンを操作したのだった。
「わかった…サリーナ…お前はアレクの話をどう思う?」
話を向けられたサリーナは、壇上から降りアレクの横に膝をつくとレイウスに真っ直ぐな目を向けた…
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