「私は憲兵団所属の”レン”と申します。貴方にはレイウス公をはじめとする、フローレンス一族に対する不敬罪の嫌疑がかけられています。…しかし、捜査に協力することで投獄を逃れる術があります。貴方も知っていると思いますが…、よりフローレンス家に対する侮辱行為をしている者がいると聞いています。」
「あ…ああ、アレクのやつか…っ!?そりゃあ、あのよ、姫様が病で倒れられた時、看病を命じられて、『死ぬなら一人で死ねよ』とか、『俺も郊外行きかよ、疫病神め』とか、いっていました…。お、俺は酒の勢いで愚痴を言ったことがあるだけで、そんな大それたことは…っ」
「ええ、分かっています。アレク…という男性ですね。ふむ…、そのような言葉を吐いていたとは…。ご協力感謝いたします。」
マオは度々酒場で憲兵を名乗り、アレクの情報を集めていた。
彼は酒場によく出入りしており、顔馴染みも多い。
しかし、所詮は飲みの仲間であり、お互いを庇うような強い信頼はない。憲兵の嘘は効果的だった。
普通に生きていればどんな名君の領主であっても、愚痴の一つや二つは出るもの。適当に『不敬罪』というワードを出すだけで、あとは相手が勝手に相手が解釈してくれる。
(アレク…、貴様はサリーナ様を何だと思っているんだ…。こんな罵詈雑言を書き連ねたメモ…、メイサ様が見たら卒倒してしまう…)
非番の日は場外に出て聞き込みやアレク、ルシアの尾行。
サリーナの伴侶としては到底そぐわない行動や言動が目立ち、報告を躊躇うほどだった。
(確たる証拠は結局掴めなかったが、アレクはすでにサリーナ様に手をつけたかも知れない…。メイサ様に知られたら、死罪は免れないだろうなあ…。とりあえず、今日の夜にでも報告に…)
サリーナが幽閉されていた郊外の麓の港町にも足を運び、様々な情報を得た。
なんと、野外で性行為に耽っている男女がいたとのこと。聞き込みにより、男側がアレクである事は間違いないが、女性側は見たこともないような美女だったとか…。
思案に耽りながら路地裏を歩いていたマオだが、尾けていたはずのアレクの姿が消えていることに気が付かなかった…。
ーーーーーーーーー
「会いたかったわ、アレク…。呼び立ててしまってごめんなさいね?」
(よくまあ…、いけしゃあしゃあと。殺してやるのは簡単だけど…、嫁入り前のサリーナに変な噂がたつのも良くない…。ひとまず引き離し、二度と触れさせないことね…)
マオから全てを聞いていたメイサは、アレクを敵と認識していた。
純真なサリーナを弄ぶ悪鬼。到底許されるはずがない。
しかし、サリーナの快復により、フローレンス家の動向は各地方の貴族達が見守っているところ。
離れでサリーナを看病し続けた男が処刑されたとなると、あらぬ噂が立つのは目に見えている。
ふう、とひとつため息をつき、アレクを睨みつけ…。
「貴方、サリーナのことを『疫病神』と言っていたそうね…?離れの方では随分高級娼館に入り浸っていたとか…。ギャンブル、娼館にお酒…、貴方の給金では足りないくらい使ってるみたいだけど、サリーナからお小遣いをもらってるのかしら?」
サリーナはルシアを介し、度々お金をアレクに渡していた。
アレク側がせびる事はないが、金が入り用の素振りを見せるだけで、金銭感覚に疎いサリーナは簡単に大金を渡してくる。それらはルシアとアレクの小遣いになっていた。
当然、それもマオが調査済みである。
「今すぐその首を落とし、サリーナを弄んだことを後悔させてやりたいところだけど…、優しいあの子はそれさえ悲しむでしょう…。もう二度と、私の娘の前に現れないでちょうだいっ!!」
メイサの怒号が響く。
このあとマオが入室し、アレクを退室させる流れになっていたが…、扉をノックする音は聞こえない。
(マオ捕まえたから何…?マオは結局無事だし、私も報告をきちんと受けている…。お得意のハッタリでしょう…)
「もう貴方と話す事はないわ。私の時間は使用人風情の貴方と違って貴重なの。早く出て行ってちょうだい…っ!…何してるのっ、マオ…ッ!!早くこの男を摘み出しなさいッ!!」
不適な笑みを浮かべているアレクに苛立ち、怒りを露わにしながらマオを呼ぶが、やはり返答はない。
ただの一度だってマオはメイサの命令に逆らったことなどない。そう、夜の慰めだって…。
「…は?あ、貴方っ、犯罪を告白したということ…っ!?憲兵に突き出す…、ぁ、なんでそれ…っ!?」
犯罪者との繋がりや、マオの妹の誘拐自白。
もはや憲兵に突き出す他ないとさえ思ったが、アレクがテーブルに置いた物を見て、怒りで真っ赤になった顔から血の気が引いて青ざめた。
マオに毎晩使わせているディルドだった。
なるべくレイウスのモノに似ているものを探し、使い込んでいるソレは、ある箇所から上部分が濃く変色しており、メイサの膣深さすらわかるほど。
咄嗟に口から出た言葉は、『そんなもの知らない』であり、我ながら無茶である事は理解している。メイサの部屋には置いて置けないものであるため、マオが保管管理している。それをアレクが持っているということは…。メイサとマオの情事すら知られているという事。
「もう良いっ、話にならないッ!オマエ如きが偉そうに…っ、レイウスに全てを話して…っ、ぁっ、ぁれ…っ?」
脚が、動かない。
ソファから立ち上がっても数歩しか動かず、後は根を張ったように動かず、アレクの笑い声だけが響く。
「…そんなこと、あるわけが…。」
『お母様っ、この指輪…、離れの近くにる港町で作ってもらったんです。綺麗なお母様に似合うと思って…。』
数日前、サリーナに唐突にプレゼントされた指輪。サリーナが自分のために何かをしてくれた事自体が嬉しく、貰ったその時から指に嵌めている。
サリーナはアレクから、『メイサ様の御機嫌を少しでも取りたいので、サリーナ様からこの指輪を贈っていただいてもよろしいでしょうか?私からと言ってしまうと、メイサ様に下心を悟られてしまいそうなので、サリーナ様からのプレゼントということに…』と相談されて渡したものだが、それを知らないメイサは一瞬娘を疑った。
(サリーナが罠を…、いや、あの子はそんなことをする子ではない…、なら、誰が…。)
当然、ソファでふんぞり返っている男だろう。
敵意を剥き出しにして睨みつけるが、身体はアレクが命じた通りに彼の目の前まで歩き、まるで召使のように直立する。
「…っ、アレク…、もうやめなさい。このままでは、貴方も庭師のお父さんも処罰しなくてはならなくなるわ…。でも、今ここでやめるなら、少なくとも今日のことは不問にしてあげる…、それでどう…?」
憎々しげにアレクを見下ろすメイサ。
近くで見れば、やはりサリーナの母親であり、顔立ちはまるで一緒。サリーナがこのまま歳を重ねた姿で、肩ほどに切りそろえた髪が大人らしい落ち着きを思わせる。
しかし、決してサリーナはしない、敵意や怒りを露わにする表情は、アレクをより興奮させた。
顔立ちはかなり似ているとはいえ、サリーナよりも小柄で細く華奢な、ガラス細工のような身体は堪能しがいがある。
「アレク…、これ以上は悪ふざけでは済まないわ…っ。この指輪…を外して、マオの妹も解放して…っ」
「メイサ様、ドレスの裾を捲って、下着を見せてください。」
メイサの懇願虚しく、被せるようにアレクが命令を出す。メイサの意志とは反し、くるぶしを隠すほど長い水色のドレスの裾を両手で掴んで持ち上げ出す。
「…っ、嫌っ、やめてっ!嫌っ、嫌ぁっ!!マオッ、助けてっ、マオッ!!」
どんなに嫌がっても、身体は勝手に動く。
下着を見せる…、それは確かに屈辱だが、それにしても大袈裟なほどの拒否反応。
随分嫌われたものだとアレクは思ったが、ドレスが捲り上がると、その意味を理解した。
「…ぅぅっ、見ないで…っ!しっ、死刑にするから…っ、貴方もルシアも…っ、庭師の父も…っ!絶対に許さないから…っ!!」
涙目になるが、その目は仇を見るように、鋭く細く…、犬歯を剥き出しにして睨みつける。
しかし、身体の方はというと、裾を大きく持ち上げて捲った結果、綺麗に無毛に整えられた恥丘が顔を見せていた。
本来なら今日は、アレクに釘を刺し、サリーナから遠ざける日だった。そして、娘の周りを飛び回る悪い虫を片付けたあと、さっぱりとした気持ちでマオにシてもらおうと考えていた。
こんなに長く話すつもりもなかったし、ましてやこんなことになるとは思ってもいなかった。
いつレイウスに抱かれても良いように、身体は常に綺麗に維持している。
妻のいじらしい努力であり、このような悪人に見せるためのものなんかでは決してない…。
※元投稿はこちら >>