「メイサ様…アレクが来ております…」
メイサの私室のドアの外からマオは声をかけた。
「通してちょうだい…」すぐにメイサの声がし、アレクは部屋へと通された。
「メイサ様…アレクにございます…」
マオに続き部屋へと入ったアレクは深々と頭を下げた。
そんなアレクにメイサはソファーに座るよう勧めた。
メイサは、わざわざ呼びつけたことを詫びるとともにサリーナの介護の労をねぎらい、感謝の意を伝えた。
「いえ…サリーナ様は私の主…レイウス様の大切な姫君…仕える身の私としては当然のこと…メイサ様からそのようなお言葉を抱けるとは勿体のうございます…」
「本当に感謝しているのですよ…」そうメイサは微笑みを浮かべたが、その目はアレクを見つめ、アレクの表情なとを見定める…というより怒りが籠もったように厳しいものだった。
しかしそれも当然のこと…アレクの交友関係をはじめ、人となりに至るほぼ全てをマオから聞かされていたからで、愛するサリーナを任せられるどころか、近寄らせたくもないと思えるものであった。
城の女中に手を出しレイウスの逆鱗に触れ反省したかのように見せかけ、酒の席ではレイウスを逆恨みする言葉を吐き、サリーナの介護を任された時にはサリーナの事を疫病神と罵った。
仕事は父親の目を盗んではサボり、その給料のほとんどは酒と女とギャンブルに注ぎ込み、借金をしては踏み倒すゴロツキ以下の男…
サリーナから味方になって欲しいと泣きつかれ、メイサなりにアレクという男を見定めるつもりだったが、メイサの前で善人ぶる男は、レイウスだけでなくサリーナを騙した殺してやりたいと思える憎い男…今すぐにでも処刑したいところだが、伝染るかもしれない病気のサリーナを付ききりで介護した男を処刑すれぼ、良からぬ噂が立ち、サリーナにも飛び火するおそれも…
建前は感謝の意を伝えるということだか、この場でサリーナとキッパリと縁を切らせるつもりだ。
「ところで話は変わりますが…」とメイサは口にし、その声は低く冷たくなる…
メイサは、アレクを部屋へと呼んだ経緯から話しはじめ、そのためにアレクの事を調べたと告げた。
アレクは、黙ったままメイサの話を聞いていたが、喋っているメイサは次第に感情が抑えきれなくなったのか、怒鳴るように激しくアレクに非難の声をぶつけた。
「もう2度と娘に…サリーナには近づかないでちょうだいっ!」
肩で大きく息をしアレクを睨みつけるメイサに対してアレクは表情を変えることなく大きくひとつため息をついて浅く座っていたソファーにもたれかかった。
「ふぅ~~~もう気が済ましたか?貴女が私の事を調べていた事は知っていますよ…いや…途中で気づいたというべきでしょうかね…実は私も貴女の事を調べていたのですが…その時に私の事を嗅ぎ回る女がいることに気づいたのです…貴女の侍女…マオとか言いましたか…それでマオって侍女をとっ捕まえて色々と話を聞き出したのですが、すでに調べたことは報告済みだと知れましてね…貴女がこう出でくることは想定内のことでした…」
アレクは感情的なメイサとは対照的に落ち着き払っており、少しも悪びれた様子もない…そんなアレクにメイサの苛立ちは頂点に達し「早くこの部屋から出でいきなさいっ!」と怒鳴った。その顔は日頃レイウスの横で慎ましく微笑むメイサのものとは思えないものだった。
「まぁまぁ…まだ私の話は終わっていないので…」
アレクは、メイサをなだめるように言うが、逆にメイサの癇に障り「マオッ!マオっ!誰か人を呼んでちょうだいっ!マオッ!」と扉に向かって大声を発した。
「マオは来ませんよ…さっき言ったじゃないすか…マオをとっ捕まえて色々聞き出したと…ただ話を聞いただけと思っているのですか?」
扉の向こうに控えているはずのマオの返事がない…メイサの胸に何とも言えない不安が…
「実は…マオをとっ捕まえて話を聞く前にマオの妹を拉致しました…金さえ出せば人殺し以外何でもやるダチがいまして…まぁ人質…ですかね…そのお陰でマオは洗いざらい喋ってくれましたよ…色々とね…例えばコレのこととか…」
アレクはニヤリと口元歪めると上着の内ポケットからある物を取り出しテーブルに置いた。
それを見るなりメイサの顔から血の気が引いた。
「そんな顔をなさらなくても…ご愛用品でしょう?」
アレクがテーブルに置いたものは、毎晩のようにマオに使わせたディルドだった。
「な、何ですか?ソ、ソレっ…!も、もうオマエとの話は終わりましたっ…!オマエが出でいかないなら私がっ…」
明らかにディルドを見せられ動揺するメイサ…あまりの恥ずかしさに倒れそうになるのに辛うじて耐え扉に向かい歩き出そうとした。
だが…その足は2歩ほど踏み出されただけで動きを止めた。
メイサの意思でない…足を前に出そうとしても何故か身体が言うことを聞いてはくれない…
「アハハハッ…眉唾モノだったが…ちゃんと効くんだコレ…」
笑い声に振り返ったメイサはソファーで腹を抱えるアレクを睨んだ。
「いやいや…大笑いしてすいませんね…貴女がつけているその指輪…2日ほど前にサリーナからプレゼントされたモノでしょう?療養先の近くの港街で見つけた石で指輪を作り、やっと出来上かり届いたと…それは全部嘘でして…私がサリーナにメイサ様に渡すように頼んだのです…その石は、私の持つ原石から作られたモノて主と従の関係にあります…ふふふっ…何を言っているか分からない顔をしてますね…」
アレクは、手の上でルビーを思わせる真っ赤な石を転がし説明をはじめた。
アレクの父親か使用人になる前、独自で商売をしていた頃に借金のかたに貴族から受け取ったモノで、その昔奴隷を従属させる目的と所有権の証に使われた道具であると…
「簡単に言ってしまえば…主が奴隷を好きに動かす魔道具の類です…つまり原石を持つ私が主で、そこけら作られた指輪を嵌めた貴女は奴隷…と言うことですよ…さぁ…メイサ様…そんなところに立ったままじゃなく…コチラヘ…」
アレクかそう口にすると動かなかった足は向きを変え、ソファーにふんぞり返るように座るアレクの前へと歩を進めた。
「こういうことです…私が命じれば貴女の意思とは関係なく身体の自由は私の思いのまま…貴女が私のことなど調べずに娘の頼みを素直に聞いていれば、こんなことにはならなかったのに…」
色々考えた末に、こんなふうにしました。
一時は日本の藁人形とか、中国の蠱毒の呪詛とか考えましたが…
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