「グラベル様…今宵は、貴重な時間をありがとうございます…」
レイウスの右手…グラベルをアレクはサリーナと共に出迎えた。
サリーナから「相談したいことがある…」ということだったはずが、アレクが居ることにグラベルの顔は強張る。
ルシアの手配で郊外の貴族の別荘を借り酒宴を用意したのだが、サリーナの名でグラベルを招いたのは正解だったようだ。
もしにアレクの名を出せばグラベルがわざわざ時間を取ることもなかったのは、その様子からも伺えた。
長い間、闘病生活を送ってきたサリーナとそのサリーナを献身的に支えたであろうアレク…その2人が身分が違うとはいえ、強い絆で結ばれることも無いことではない…相談事とはまさか…とは思っていたグラベルとしては当然の反応といえた。
公爵令嬢と使用人…グラベルの価値観からもあり得ない話だ。
「グラベル様…ご相談というのは…」
仏頂面のグラベルに とりあえず…と食事を勧め酒を注ぎながらサリーナが話を切り出した。
「グラベル様のご様子から私たちのことを薄々とは察しておられるようで…実はグラベル様のお察しの通り私たちは愛し合っております…当然…身分の違いなども重々承知しておりますが…どうしても諦めることはできません…おそらくお父様もすんなりとは首を縦には振ってはくれないでしょう…そこでお父様の側近のグラベル様に私たちのお味方になって頂きたいのです…」
「姫様のお気持ちはよく分かりました…ですが…さすがにそれは…」
サリーナはグラベルにとっても娘のような存在…娘同様であるサリーナからの頼み事で無下にはできないものの安直に味方するとも言えないようで言葉を濁した。
(やっぱり…話だけじゃあダメだな…元々大貴族様のグラベルじゃあレオドールのようにはいかねぇな…魚を釣るにはエサをぶら下げなきゃダメか…こんなヤツに勿体ないとは思うが…)
酒好きのグラベルに2人で酒を勧め酔わせてみた…少しずつは話を聞いてくれるようにはなったが、どうしても最後のところで難色を示すグラベル…その様子にアレクは作戦を変えることにした。
この前日、アレクはサリーナと共にもう一人のレイウスの側近、デオドールと話をした。
デオドールもまたアレクとサリーナが一緒にいた事で全てを察し、話をする前にデオドールのほうから釘を刺された。
頭の切れるデオドールに駆け引きは無駄だとアレクは単刀直入に提案を持ちかけた。
その提案とは…もし味方となり2人が結婚できたならデオドールの持つ爵位…男爵から子爵の爵位が与えられるように公爵家であるフローレンス家が王宮に手を回すというものだ。
男爵でありながらレイウスの側近中の側近である手となれたのは、デオドールが飛び抜けて優秀であったため…子爵の家督を継ぎ右手になったグラベルとは違う。
デオドールの息子も優秀であるらしいが、デオドールほどではなく、このままだと左手として跡を継ぐことは難しい…けれどデオドール家が子爵家となれば話は別だ。
アレクは見返りにこの提案をしたのだ。
若い日のデオドールであったなら、こんな話にはのってはこなかったかもしれない…だが自分の息子とグラベルの息子を比べた時、明らかに劣るグラベルの息子が爵位だけで右手を継ぐことになるのは父親として我慢ならなかったのだろう…デオドールもひとりの父親だったのだ。
加えてアレクはもうひとつの話をした…グラベルの反応次第だとした上で、軍もデオドールに任せてもいいと…グラベルを失脚させデオドールに全て任せると…
「サリーナ様…やはりもっと酔わせたほうがいいみたいですね…サリーナ様からどんどんグラベル様にお酒を勧めてください…」
グラベルを酔わす作戦だとばかりにサリーナに耳打ちをしたアレクだったが、本当の目的はグラベルを酔わすことでなかった。
アレクが何を企んでいるかも知らずにサリーナは甲斐甲斐しくグラベルに酒を勧めた。
アレクは、そんなサリーナの隙を見てサリーナのグラスに薬を混入した。
睡眠導入薬であったが、酒と共に摂取すると、酩酊状態になる代物…視界はぼやけ意識朦朧…現実なのか夢の中なのか…そんな状態になる薬だった。
「少し…酔った…みたい…です…」
薬の効き目はすぐに現れサリーナはソファーの背もたれに倒れ込む…アレクが声をかけると返事をするが起きているのかハッキリとしない…
「サリーナ様は酒に弱いですから…しかも後で酔っていた間のことは覚えておらず…サリーナ様の侍女に酔い覚ましの薬をもらってきますので…その間、サリーナ様の介抱をお願いしてもいいでしょか?」
グラベルもサリーナを心配して「わかった…」と答えた。
「それでは行って参ります…少し時間がかかるかもしれません…城まで行って帰ってくると2時間ほどでしょうか…よろしくお願いします…」
アレクは席を立つと別荘を後にした…扉には鍵をかけ、意味有りげな笑みをグラベルに向けて…
「姫がこれほど酒に弱いとは…これまで長い間、床に伏せっていたからなぁ…姫様…大丈夫ですか?」
サリーナとふたりにだけになると、グラベルはサリーナに声をかけた。
サリーナはその声に「だ…大丈夫…です…」と少し呂律の回らない返事を返し、再びソファーに沈み込んでしまう…
「姫…そんなとこで眠ってしまうと風邪を引きますよ…姫様…」
「大丈夫です…アレクは心配性ですね…」
(アレク?寝ぼけておられるのか…困ったな…)
「姫…」
グラベルはサリーナの肩に手をかけ少し身体を揺するが、ゴニョゴニョと何かを言って身体を動かした。
その拍子にドレスの裾が捲れ上がり太ももが露わになった。
グラベルは身体を揺する手を止め思わず見入った。大理石を思わせる白く程良い肉付きの太もも…
目を閉じ吐息を吐くサリーナ…酒のせいでほんのりと頬はピンクに染まり、その美しい顔は妙に色っぽい…息をするたびにドレスの胸元が大きく動く…
グラベルはマジマジとサリーナを見つめた…幼子の頃から知っているとはいえ、そのほとんどはベッドの上…病も治りほぼ健康体になったサリーナをこれほど間近で見たことはない。
(なんと美しい…この美しい姫を使用人であるアレクごときが…)
ふたりが身分の違いさえ無視して結婚をしたいということは、当然ふたりの間に男と女の関係があったはず…グラベルの中でアレクに対する嫉妬が湧き上がる…
(今なら…今のサリーナ様なら…)
グラベルはゴクリと唾を飲み込むと顔近づけた…サリーナの吐く息は甘くバラの香りのよう…その甘美な匂いは酒の入ったグラベルの理性など簡単に吹き飛ばした。
「姫様っ…!」
グラベルはサリーナの唇を奪った…この世のものとは思えない柔らかな唇…主君の愛娘であることなど考える余裕すらなくした。
(………!?)
グラベルは驚いたように唇を離した…思いもせずサリーナのほうから舌を伸ばしてきたのだ。
「う、ううんつ…アレク…」
その声を聞きグラベルは再び唇を奪うと自らも舌を差し入れサリーナの口内を味わった…
喘息があると大変そうてすね。
お辛いかと思いますが、1日でも早い回復を願っています。
少し長々と書いてしまいました。
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