「お母様は来られないところに来てしまったのですね…っ。お店も経験したと、いつか自慢したいですが、内緒ですものね…。きっと『よく頑張った』って褒めてもらえるのに…。」
先程までは死ぬほど恥ずかしかったことも、喉元すぎてしまえば冒険譚となり、愛する母に報告したい気持ちでいっぱい。
しかし、アレクには口酸っぱく口止めされているため、諦めるしかない。
嘘の常識もそうだが、アレクの口止めもしっかり効いている様子。
サリーナの金で購入したアダルトグッズを大量に積んだ馬車の中でも平然としていた。
病弱で足腰が弱いサリーナの手をエスコートしていたアレクだが、馬車に乗ってしまえば必要ない。
しかし、自然と手を握ったまま、馬車で楽しく談笑し、湖へと向かった。
「こんなに綺麗な湖があるのですね…。もちろん写真では見たことがあります。しかし、実際に見ると、雄大で美しい、素晴らしい景色です」
馬車を降りると、虫の音色がBGMとなって響く湖のほとりが広がっており、澄んだ空気が2人を包み込む。
大きく深呼吸し、静かに波打つ湖に目を輝かせながら遊歩道を歩き、目的の東屋へと向かう。
「…ひゃあっ!?…っ、驚きました、これは隣国の開発した技術でしたね。社交会の際、開発しているというお話を聞きました。元々は、隣国の第二皇子様と婚約しておりましたからね…。」
大きな声をあげて驚くものの、アレクの説明を聞いて思い出す。
かつてまだ体調が良かった頃、社交パーティーにも顔を出していたサリーナは、少し年上の隣国の第二皇子と婚約がほぼ決まっていた。
話がいよいよ確約となりかけた頃に病状が急に悪化し、当然その話は立ち消えてしまった。
苦い思い出ではあるが、今サリーナを好き勝手に出来ているのも、全て病気のおかげであり、アレクからすれば幸運そのものだった。
「わあっ、き、綺麗…っ!すごいっ、すごいですっ、アレクっ、おっきくて…っ!」
ようやく始まった花火の打ち上げ。
一つ一つに子供のように反応し、はしゃぐサリーナ。
空ばかりを見ていたサリーナにアレクが湖面を見てみるよう促すと、そこに写っていたのは湖に咲く花。
思わず見入るほど美しく、アレクに身を預けたまま、じっと鑑賞し始めた。
2人きりで、静かな空間に綺麗な花火が咲き、ムードは自然と高まる。
初めての花火を見た興奮も少し落ち着き、ゆっくりと心の内を語り始めた。
「…実は、アレクと最初に2人で暮らすと決まった時、少し怖かったのです。殿方との関わりは少なくて、お屋敷にいた時はアリサが付き人でしたから…。」
アリサはサリーナと同じくらいの年のメイドであり、本家にいた頃は御付きの使用人だった。
接している時間も長かったため、友達のように仲が良かったが、アリサか嫁ぐことが決まり、サリーナの元を離れ、病状もさらに悪化。
感染すると言われている病気のこともあり、人数を割くことはできず、離れに幽閉するとなると、力仕事も必要であるため、選ばれたのはレイウスからの信頼も得ていたアレクだった。
「でも、こんなに素敵な人柄で、お優しい方で助かりました…。アレクには申し訳ないですが、こうして一緒にいられることが、本当に楽しいのです。」
花火を見ていたはずの瞳は、気がつけばアレクを覗き込んでいた。
「夫婦の真似事をお願いしたり、我儘ばかりで迷惑をかけているのはわかっています。こんなことを口にしたら、きっと困らせるだけなのも…。でも、今は体調が良くても、またいつか悪化して、死んでしまうことだってあるかもしれません。だから、伝えるだけ伝えたいの…。アレク、お慕いしております。アレクのことを想うと、ドキドキして、寝付けない日もありました。ずっと、一緒にいたい…。」
ひとしきり言い終えると、少し気恥ずかしくなって、アレクの胸元に抱きつく。
それと同時に、今日一番の大きな傘が空に輝き、2人を彩った。
アレクの演技や嘘には全く気が付かず、日課の自慰や口淫、毎晩の交尾など、体の触れ合いが多く、刷り込みに近いものでもあったが、サリーナはそれを愛だと誤認していた。
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