「メイサ様のお立場では、難しいかもしれませんね…レイウス様とメイサ様は領主様ですから…街中がひっくり返るようの騒ぎになるかもしれないですし…」
一般的な夫婦、恋人は、ああいう店に連れ立って訪れることなど殆どない…母親であるメイサもと考えたのは、これまでのアレクの嘘を信じきっている証拠でもあった。
「湖の公園には、そこの通りから定期便の馬車で向かいます…」
アレクとサリーナを載せた馬車は、市街地を出て丘の方へと走り出した。
「普段なら何組かのカップルもいるはずてすが、今日は祭りですから湖の公園にはあまり人はいないかもしれません…湖に咲く花はまだまだ多くの人には知られていませんからね…」
サリーナの手を握り談笑をするうち馬車は公園の入口に到着する。
降り立った二人を出迎えたたのは、人で賑わう街の喧騒とは真逆の静寂だった。
所々に灯る街灯の下を湖のほとりに向かい歩く2人…その間、人影を見ることもなくアレクたち以外誰もいないようだった。
「ここで花火が上がるのを待ちましょう…」
湖のほとりには、等間隔でベンチがある…ベンチと言っても長椅子が設置されているだけでなく、屋根と囲いがあり、東屋のような造りのもので、言い方を変えれば個室が点在しているともいえた。
2人が東屋の中に入ると簡易の天井の灯りが灯った。
サリーナは突然灯った明りに飛び上がるよう驚くが、アレクの説明を聞いて胸を撫で下ろした。
「ここの明かりは、中に入ると自動的に灯るのです…どこかの国で開発された新しい技術だそうで、湖に流れ込む川の水車から動力を得ていると聞いています…この街は外国との交易が盛んですから、そういう新しい技術も入ってくるのでしょうね…サリーナ様…辺りを見てください…私たちのいる所以外は明かりか灯ってはいません…他には誰もいないということです…湖に咲く花は私たちの独り占めですね…」
ドォーン
月のない暗い夜空に一筋の光が上がり赤や青の大輪が開き、その直後腹に響く大きな音がした…祭りのメインの花火の打ち上げこ始まったのだ。
ひとつ目の大きな花火を皮切りに次々と上がる花火…初めて見る花火にサリーナは歓喜の声を上げた。
「サリーナ様…空ばかりでなく湖面をご覧になってください…」
空を見上げ次々と上がる花火に目を輝かせていてサリーナは、アレクの言葉て視線を湖に落とし思わず呟いた。
「これが湖に咲く花…」
真っ黒な湖面は鏡のように夜空の花火を映し出していて、さながら大輪の花のよう…時折吹く風に湖面が揺らぎ、天空の花火とは違う面持ちを見せる。
「これをサリーナ様にどうしてもお見せしたかったのです…」
アレクがサリーナの肩を抱くように手を回すと、サリーナもアレクに身体を預けた…誰からも見ても仲睦まじい夫婦にしか見えない光景だった。
女としての悦びを知るための仮の夫婦として始まったアレクとサリーナの関係たが、サリーナの仕草は肌を重ねるほどにアレクに対する気持ちか大きく変わりつつあることを物語っていた…
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