サリーナの手を引き、広場を離れ狭い路地へと足を踏み入れた。薄暗くなりかけた路地は日頃ならば路上に屯する輩を多く見かけるのだが、祭りの当日ということもあり人影は殆ど見かけない。
連れ込み宿や如何わしい店のネオンだけが妙に目につく…
そんな中でも特にケバケバしい電飾の店が例のアダルトショップだった。
一般人が見れば下品なほどの電飾だが、そんなモノを初めて見るサリーナにとって鮮やかに映ったようで「鮮やかで綺麗ですね…」と夜の営みで使うモノと聞いて恥じらいを見せた顔は、どこかワクワクしているように見えた。
「さぁ…入りましょう…」
中の見えないようスモークが貼られたガラス戸を開け店内に足を踏み入れたサリーナが辺りを見渡し立ち尽くした。
壁の造り棚には、サリーナも知るバイブやローターの他に見たこともない道具類が並べられていて、数体あるマネキンはサリーナ自身が身につけているような卑猥な下着が着せられていた。
その数の多さに驚いたことと急に込み上げてきた恥しさに思わず俯いてしまう。
「こんなところで恥ずかしがるほうがヘンに思われますよ…今日は祭りで客が少ないようですが、普段なら私たちのように夫婦や恋人同士で賑わっています…洋服や必需品を買いにきたくらいに思ってください…それが普通ですから…」
アレクが思わず立ち止まってしまったサリーナの耳元で囁いた。
それは当然のことながら嘘であったが、サリーナにそれが分かるはずもなく「はい…」と頷き顔を上げたが、その顔はほんのりと赤く染まっていた。
「いらっしゃい…旦那…今日は何かをお求めで?」
ひとりの男がアレクたちに近づき声をかけた…この店の主だった。
「今日は奥さまもご一緒なんですね…伺っていた以上にお美しい方ですねぇ…」
顔を上げたたサリーナだが、まだ恥ずかしいのか目を伏せたまま…それをいい事に主はサリーナの全身に舐めるような視線を向けた。
普通ならば愛する妻にそんな視線を向けられ夫が抱く感情はアレクにはない…優越感しかなかった。
「ありがとう…自慢の妻だよ…このあと湖まで行くんだが…それまでに買い物をしようと思ってね…何かオススメはあるかい?」
「それでしたら…いくつかあります…さぁ…こちらへ…奥さまも…」
主は二人を伴い店の奥へと向かった。
そこにはガラスのケースにサリーナが見慣れたモノやそうでないモノがズラリと並べられていた。
「このバイブなんてどうです?太さも長さも他とは比べものになりません…あぁ…でも旦那のモノを型どったアレと比べると見劣りしてしまいめすねぇ…どうでした奥さま…あの旦那さんのモノを型どったバイブの使い心地は?」
アレクの隣で小さくなっていてサリーナだったが、突然に話を振られ慌てた。
「は、はい…あ、あの…そ、それは…」
サリーナか口籠るのも無理はない…振られた質問もそうだが、いつの間にか店にいた数人の客が二人の近くに不自然に集まっていたからだ。
(ま、まじかよ…な、なんていい女なんだ…)
アレクたちが店に入った時、それに気づいた客の第一印象だ。
商売女や愛人を連れてくる客もいる…そんなことに慣れている店の客たちだったが、サリーナを見て呆然となった。
大凡こんな店にはあまりにも場違い…身なりこそみずぼらしいものの、その美しさとどことなく溢れ気品の高さに、その反応は当然と言えた。
それと同時に客たちの想像は一気に膨らんだ…この美しい女が何を買うのか…
客の男たちはサリーナの声に聞き耳を立てた。
男のモノを型どったバイブの使い心地…女がどう答えるのか…
「サリーナ様…主がお聞きですよ…商品の感想を聞く…これは普通のことです…さっきも言ったように恥ずかしがるほうがヘンなのですよ…」
(クククッ…男たちが聞き耳を立てるぞ…恥ずかしいだろう…お前のそんな顔は俺をゾクゾクさせるんだ…さぁ早く答えろよ…)
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