「それでね、今日体育の途中で犬が入ってきちゃってー…」
「うふふっ、拓海くんらしいわね…。次郎さん、これもどうぞ食べてください…っ」
夏芽は次郎というより、美奈子の趣味に引いたものの、食卓を囲んでしまえば夏芽が話しやすいように、かつズケズケと無神経にならないように話題を振ってくれる次郎に、なんとなく『良い人』を感じていた。
長い間、母子家庭で過ごしてきた2人。
親子でありながら友達のようであり、お互いに強い絆があることが初見の男ですらわかる。
だからこそどちらかを墜とせば、一石二鳥というやつだ。
場も温まってきたところで、ついに次郎が美奈子への想いを夏芽に語る。
「…夏芽ちゃん?お母さんはね、パパのことを忘れたりとかそういうことじゃないの。それだけは、わかってちょうだい…。」
「うん、わかってる…。お母さんが望むことなら、私は特に何も…。お母さんをよろしくお願いします…。」
美奈子はこの日、結婚指輪を外していた。
母が血も繋がっていない男にデレデレしている姿を見て、なんとも言えない嫌悪感を覚えていたが、母が自分を犠牲にして頑張っていることを知っている。
(お母さんは何かよくわかんないけど、最近すごく辛そうで…、見てられなかった…。私は子供だから、力になってあげることはできなかったけど、この人は大人だし、ちゃんと支えてくれるよね…)
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