「…はあ。もう寒くなってきたし…、帰ろ…。お腹も空いてきたし…。」
エントランスでしゃがんだり、クルクル歩いて回ったり、無意な時間が過ぎて行く。
お腹が「ぐう〜っ」となったことで、渋々部屋へと向かった。
(あ…、拓海いるんだ…。遅くなってなかったら、とっくにバイト終わってる時間だしなあ…。どんな顔して会えばいいんだろ…。夏目の部屋…?のこととか、いっそのこと聞いてみようかな…)
土間にある靴を見て、拓海がいることを知る。
2人で暮らすにしても、ここを去るにしても、まずは話し合うべきだと思っていた。
誤解があったのかもしれない、拓海は夏芽の酷い姿を見て興奮なんかしていない…、そう思いたかった。
帰宅すると、いつも玄関まで迎えにきてくれる拓海だが、今日は来ない。
でも、靴はあるのだから、部屋にはいるはず。トイレかとも思ったが、電気はついていない。
「拓海?なんだ、いるんじゃん。拓海…?」
部屋に入ると、パソコンの前でヘッドホンをしている拓海がいた。
コートを脱いで声をかけるが、拓海は気が付かない。
近づこうとした瞬間、拓海が気がついて、慌ててパソコンを閉じた。
「え、ああ…。えっと、そうなりそうだったんだけど…。今、なんか隠した?」
美紀から連絡があったと言うことは、美紀は夏芽を裏切った。そのことに少しショックを覚えたけれど、それを掻き消すほどの拓海の慌てよう。
目を細め、顔を顰めながら拓海を見つめる。
「いや、動画見てたって…、別にそんな慌てなくてもいいじゃん。何見てたのか、見せてよ。」
拓海の慌てぶりに疑心を抱き、近づく。
普段なら別にスルーするようなことでも、すでに拓海に対して疑念を抱いている。些細なことでさえも気になっていた。
パソコンはシャットダウンされておらず、スリープにされただけ。まだ動いている。
パソコンに手を伸ばして、画面をつけようとしたが、拓海がそれを遮った。
その瞬間、ヘッドホンのコードが抜けて…。
『ぁんっ、ぁあっ、ぁああんっ!!』
「…はあ、なるほどね。そう言うの見てたから、隠そうとしてたんだ…。」
(なんだ、エッチなビデオ見てただけか…)
パソコンから大音量で流れる、甘ったるくて甲高い声。ため息をついて、パソコンをつけかけた指を離そうとした瞬間、
『お義父さんっ、やだっ、もう嫌っ、こんなの…っ、ぁっ、イくっ、イ゛く゛っ!!』
それが、自分の声だと気がついて、サァー…と青ざめた。
拓海が止めようとするが、振り払ってパソコンをつけると、画面いっぱいに裸で縛られ、そのまま次郎に後ろから犯される夏芽の姿が映し出された。
「…うぷっ、ぉえ゛っ、ぇえ゛っ!!」
強烈な吐き気に襲われ、口元を抑えながらシンクに駆け出した。とにかく目の前の男が気持ち悪かった。
吐瀉物を吐き出し、水道で口を濯ぐ。
何かを言いながら、拓海が手を伸ばしてくるが、思いっきり叩いて拒絶した。
「触らないで…っ、変態っ!拓海、全部知ってるんでしょ…?夏芽の部屋、って言うんだってね…。三宅達がそれ見て、私を脅してきたみたいに、拓海もそれを見て、弱ってるから優しくすれば簡単に股を開くって、そう思って近づいてきたんでしょ…?」
違う、反論しようする拓海の言葉を遮って、続ける。
「なにが違うの?今見てるじゃんっ!!私がどれだけ、苦しくて気持ち悪くて、怖くて…っ、何回死んじゃおうって思ったか…っ!!その度にお母さんと拓海のことを思い出して、堪えてきたのにっ!!」
ボロボロ、大粒の涙が溢れる。
言葉を発するたび、心が拓海から離れていく。
初恋の人は、大好きな人は、もう変態にしか見えなかった。
「…私、知ってるんだから…。公園のトイレで、裸で放置されてるとき、拓海…居たでしょ。助けもせず、胸まで触ってきたよね…。お母さんに乱暴して、…ははっ、本当に気持ち悪い。サイテー…」
拓海の頬に思いっきりビンタする。
良くも悪くも、夏芽は直情的。
次郎がお膳立てしたうえ、拓海が『夏芽の部屋』を利用している現場を見てしまったせいで、もはや止まらなかった。
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