「いえ、勇気があったわけじゃなくて…、拓海…、彼が手を引いて連れ出してくれたんです。」
美紀の声を聞くと少し安心して落ち着くことができた。姉という感じがして、気を許せる相手だった。
「え、本当ですかっ!?…うーん、でも、その…」
ジムでの仕事、住むところも確保できそう、となれば願ったり叶ったり。変なジムなのはわかっているが、覚悟を決めようとしていた風俗勤務よりはずっと優しいものだろう。
ただ、佐竹系列ということが気になる。
(社長ってお義父さんと仲が良いんだよね…、そこで仕事なんかしたら結局見つかっちゃうんじゃ…)
そう考えて返事に困っていると、心を読み取ったかのように美紀が口止めを約束してくれた。
「ありがとうございますっ!彼に話をしてみますね、また電話しますっ!」
佐竹社長と美紀が愛人関係…とは気が付いていないものの、仲が良いことは知っていた。
美紀が口止めをしてくれるのなら間違い無いだろう。
「拓海っ、拓海っ!仕事と住むところなんとかなりそうっ!美紀さんに相談したら、新しいジム開業で人を探しているんだって!ここじゃなくて隣町の方だから戻らなきゃいけないけど…、どうかな?」
本屋で求人雑誌を探していた拓海と合流し、上機嫌で先ほどの電話の内容を伝えた。
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