無言で抱きつき、拓海も夏芽の背中に手を回し、抱きしめる。
すれ違いあった二人だったが、抱きしめ合うとやっと一つになれた実感が湧き上がる。
「え…っ、い、嫌かも…、家帰るの…」
拓海から一旦家に戻って支度しよう、と提案されると、表情を曇らせて嫌がる。
(お義父さん家にいるはずだし、お母さんは確か夜勤だけど…。動画のことがバレてたら面倒だし、事が大きくなってたら最悪お母さん家にいたり…)
と考えるが、「制服のまま夜中や平日動いてたら警察に補導されちゃう」と諭され、仕方なく頷く。
「絶対来てね、3時だから寝ちゃわないようにね。やっぱりやめた、とか絶対嫌だからねっ」
別れ際になれば寂しくなってしまい、自分でも鬱陶しいと思いながらも何回も確認してしまう。
その度に拓海が苦笑いして優しく頭を撫でてくれた。
「拓海が望むなら、エッチなことだって何だってする…、恥ずかしいこととか、あと、痛いこととか全部頑張る…。だからずっと一緒にいてね…」
夏芽はそうして拓海の手を両手で包むように握る。美奈子のレイプ事件から拓海の性癖がサディスティックなものと勘違いしているが、それでもいいと口にする。
拓海は夏芽の痴態を思い出して表情を曇らせるが、夏芽は首を振って続けた。
「ロマンチックな話じゃないけど…、でも大事な話だと思う。だって、私たち、け、けっ、け…結婚するでしょ…?将来…」
そう言って顔を真っ赤にして俯いた。
今はまだ子供で到底結婚なんか無理だが、結婚も夢みている。そういう意味でも拓海を選んだということ。
「ね、私さ、まだこれ持ってるんだよ?拓海が昔お祭りの屋台でプレゼントしてくれたやつ。もう一回、プレゼントしてくれてもいいんだけどなあ…」
スクールバックのポケットから取り出したのは、小さい指輪のおもちゃ。リングにハートの石が埋め込まれたソレは300円くらいで売られていたおもちゃだが、当時プロポーズされたような気分になったのを覚えている。
拓海にリングを渡し、そっと左手を差し出す。
恥ずかしそうに手を取る拓海と目が合い、クスクス笑い合って、左手の薬指にリングが通った。
プレゼントされた小学生のときはブカブカで入らなかったけど、今は少しキツイくらいだった。
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(玄関から入ったらお義父さんに見つかるかも…。裏口のほうの窓、いつも鍵開けてるし、そこからこっそり中に入ろう…)
自宅に着いたものの、義父に会うのは嫌で、ローファーを脱いでこっそり窓から侵入する。
足音を立てないように忍足で二階の自室へと向かった。
「バイト代、手伝いの名目だからほとんどないけどちょっとは足しになるかな…。着替えは適当に詰めて…っと。…下着、ポケット付きのしかないけど、仕方ないか…」
ジムのバイトは手伝いという形だからほとんどないが、お小遣い程度に貰っていた。貯金箱を崩し、数万円程度のお金を封筒に詰めてリュックに入れる。
着替えを二、三日分入れ、リュックのチャックを閉めた。
「黙って出て行くと…、警察に通報されて面倒になるかな…。それにお母さん、泣いちゃうかも…。書き置きくらいして行くか…」
『拓海と一緒になります。お母さん、今までありがとう。そして、ダメな娘でごめんなさい』
(こんな感じかな…?お礼と謝罪も入れられたし、長々と書いてもね…。まだ1時前だけど、早く家出ちゃお…。)
制服から動きやすい格好に着替え、そっと自室を出た。
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