逃げるように奔り去って行く夏芽に拓海はもう声をかけることもできなかった。
初めて公園で夏芽が話しかけてくれた時から今まで あんな夏芽の顔を見たことがない…夏芽の父親が亡くなった時以外は、どちらかといえば、夏芽が拓海を心配したり庇ってくれたりした。
思いおこせば、いつも優しい目で拓海を見ていてくれたのだ。
今更ながら自分の誤ちの大きさに押し潰されそうだった。
……_
夏芽が拓海を置いて家に着いた時、美奈子が出かけるところだった。
昨日のことがあり、美奈子は当然仕事を休むものだと思っていた夏芽は、母親に駆け寄った。
「お母さんは大丈夫だから…心配しないで…」
拓海につけられた首の締め跡はスカーフで隠し、顔のアザも化粧で誤魔化していたが、夏芽はしつこく仕事を休むように訴えた。
夏芽の心配は娘として当然だったが、美奈子にしてみれば仕事を休み夏芽と顔を突き合わせていることのほうが辛かったのだ。
次郎の命令とはいえ、拓海を罠に嵌め二人の仲を引き裂いたのは間違いない…
(ごめんね…夏芽ちゃん…)
美奈子は娘の心配を振り切り仕事へと向かった。
部屋に戻りベッドにうつ伏せに横たわった夏芽は、いつの間にウトウトとしていた。
昨夜はほとんど眠れなかったからだ。
トントン…
部屋をノックする音に夏芽は目を覚ました。
「夏芽…帰っているのか?ちょっとワシの部屋に来なさい…」
次郎だった…いつもならノックもせず扉を開けるのだが、この日は違った。
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