僕は律子と並んで「ちょっとみんな、あたしの事綺麗綺麗っていうけど、あたしそんな自覚ないよ?」「それはそうだろうね?でも実際はりっちゃんを見る度に綺麗になっているよ?」と他愛もない話をしているうちに律子が僕の後ろを歩く様になった。
やがてあの公園入口にさしかかり、律子が歩みを止めて「ゆうさん?なんだか、あっと言う間だね?ここであたしはまなと再会して大泣きして。
ここであなたはまなを救ってくれた…」と言われて振り向こうとしたら「…振り向かないで?そのままで…」と言われてそのまま立ち止まると「あたしね?最初はあなたの事気に入らなかった。
いくらまなが心を預けたからと言っても、あたしのまなを取られたくなかったから。
たとえ…それが報われない想いでもいい。あの娘があたしの気持ちに応えくれなくていいって…
でもね?そんなあたしを変えてくれたのは他でもないあなた。気に入らなかったはずのあなただったんだ…」といつになく透き通る声で語る律子。
僕もまた律子と最初に会った時の事を思い出しその後、まなみと律子の身に起こった悲惨な事件を知る事になる。
僕がまなみにした事は本来なら許さない犯罪。でもまなみは僕の事を許すどころか愛してくれた。
そんなまなみを僕も心から愛して、守って行く覚悟を決めた…
それなのに、同じ境遇だった律子を立ち直らすつもりが、僕は律子をまなみと同じように愛してしまった。
まなみの親友と知っておきながら、律子の気持ちに甘えてしまった…律子もまなみも幸せにしてやる!と思い上がっていた。
律子は僕の手を両手で握り僕の背中に身体を預け「あなたは…
あたしの黒い殻を破ってくれた。
あたしを、女にしてくれた。
あたしに、人を愛する勇気をくれた。
好きになった気持ちに溺れて狂って壊れた事もあった…でも…それを含めて、今のあたしになっているんだ…
そして、瞬一とまた出会えた…」と瞬一の名が出たとたん、僕はびくっと思わず握られた手を強く握り返してしまった。
すると律子が背中から離れ、数歩下がって初めて僕に振り向き
「ゆうさん、ありがとう。
あなたがいたから、あたしはここまで歩いてこれた。
好き、大好き、愛してる…それは今でも変わらないわ…」と言う律子。
僕は色々言いたかった!でも…これからは律子が選んだ瞬一とこの先一緒に歩んで行く。
それがわかっているので、僕は何も言わす、律子を優しく見つめていた。
途端涙がぽろぽろと零れるが律子は笑顔で
「もう…もう大丈夫だから…
あたし、竹田律子は…あなたのその背中から離れても…歩いていける。だから…だから…」と一旦律子は言葉に詰まり、それでも「だから…今まで…あたしを…ずっとずっと…支えてくれて…ありがとう…あたしは…いま、この場で…あなたから…あなたから…卒業…します…」と泣き笑いの笑顔で…今まで見たどの笑顔の中でも最高の笑顔で見つめて言うと、涙が溢れ出て崩れ落ちそうになった律子を僕は胸の中で抱きとめた。
「りっちゃん…卒業おめでとう。
これからは…しゅんくんがいるから大丈夫。
淋しい気持ちはあるけど…
これからは家族として、もし何か有れば、助けるからな!」と言って律子を労る様に髪を撫で…唇にキスしたかったが、堪えておでこに軽くキスをした。
そのまましばらく律子が泣き止むまで抱きしめていた。
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