ちょっと…みんあたしの事綺麗綺麗っていうけど…
あたし、そんな自覚ないよ?
(並んで歩く道すがら、あたしたちは何気ない話をします。最初は他愛もない会話でした。言ってしまえば簡単な事を口に出さずに、はにかんで笑いながら少しずつゆうさんの後をついていくように歩みが遅くなります。
目の前の背中を見つめながら、何度手を繋ごうかと差し出してはためらう手。やがて2人はあの公園の前を通ります。そして律子は歩みをとめ…)
…ゆうさん?なんだか、あっという間だよね?
ここであたしはまなと再会して大泣きして。
あなたはここでまなを救ってくれた…
…振り返らないで?そのままで…
あたしね?あなたの事、最初は気に入らなかった。
いくらまなが心を預けたからと言っても、あたしのまなを取られたくなかったから。
たとえ…それが報われない想いでもいい。あの子があたしの気持ちに応えてくれなくてもいいって…
でもね?そんなあたしを変えてくれたのはあなた。
他でもない、気に入らなかったはずのあなたなんだ…
(いつになく澄んでいる…自分でもわかるその声を、あたしは目の前の背中に届けます。振り向かないで…今振り向かれて優しい顔で見つめられたら…
いつの間にかゆうさんの手を両手で握り、あたしはその背中に身を預けます)
あなたは…
あたしの、黒い殻を破ってくれた。
あたしを、女にしてくれた。
あたしに、人を愛する勇気をくれた。
好きになった気持ちに溺れて狂って壊れた事もあった…でも…それも含めて、今のあたしになってるんだ…
そして…しゅんいちとまた出会えた…
(その名前を出したゆうさんの手があたしの手を強く握り返します。この人はいま、どんな気持ちなんだろう?あたしのこの想い…わかってくれるかな?
そう思いながら、あたしはその背中から離れます。
数歩距離を取り、初めてあたしにゆうさんは振り向き…)
ゆうさん、ありがとう。
あなたがいたから、あたしはここまで歩いてこれた。
好き、大好き、愛してる…それは今でも変わらないわ…
(何も言わずに黙ってあたしを見つめてくれるゆうさん。だめ…こみあげる気持ちが涙となってポロポロとこぼれ始めます。それでもあたしは笑ってその顔を見返して…)
もう…もう大丈夫だから…
あたし、竹田律子は…あなたのその背中を離れても…歩いていける。
だから…だから…
(言え!言うんだ!あたしの中の気持ちがフル動員であたし自身を奮い立たせます。もう少し…もう少しだけ甘えていたいかもしれない…でも…)
だから…今まで…あたしの…あた…あたしのこと…
ずっとずっと…支えてくれて…ありがとう…
あたしは…いま、この場で…あなたから…あなたから…卒業…します…
(笑おう。せめてこの気持ちの最期は笑おう。あたしは泣き笑いの笑顔でゆうさんを見つめます。
途端堰を切ったように目頭が熱くなり、涙が溢れ出します。その場に崩れ落ちようとした瞬間、あたしはゆうさんの胸の中に抱きとめられていました…)
…そっか。
しゅんくん、りつの中のまなを感じたんだ…
普通は信じられないだろうね?こんな事…
でも、確かにあの夜、まなたちは溶けて一つになって、そしてまたお互いに戻ったの。
(さっきまであれほど騒がしかった部屋には、まな達だけがいました。まなとしゅんくんは背中合わせにもたれかかり話をします。伸ばした足先をパタパタと振りながら、ちゃんとりつの中にまなはいる…それを嬉しく思いながら…)
まなね?りつをゆうすけに会わせる事ができたの、本当によかったって思ってるんだ。
決して皆が皆手放しで賛成してくれない関係。でも、それでよかったって…
だってそのおかげで、こうしていま、あの子はあなたを見つけて、そして…あなたの元に行くんだから…
(もうどこに行っても、何をしていてもりつを感じるから平気。大丈夫。そうわかっていても…)
でも…まな、少し不安かな…?
りつがあなたと一緒にどこまでも遠くに行く事が。
まなたちはへんてこな家族。その輪にあなたも入って…でも、あなたは、そんなまなたちを少しだけ、一歩引いたとこで優しく見てるような気がするんだ…
(籍を入れるとりつが話してくれた時から感じていた漠然と感じていた不安。後で思い返す時、この時のまなは臆する事なく、湧き出る言葉をストレートに彼に伝えていました)
ゆうすけはね?あなたになら…りつを託せられるって…想ってるよ?それはあの2人の間には、まなとは違う濃くて深い繋がりがあるから。話さなくても気持ちが繋がるってのかなぁ?
でも、まなは…あなたにならりつを…っていう気持ちにいま一歩…辿り着けないんだ…
(天井の照明を見つめながら、まなは気持ちのモヤモヤを話します。ギクっというかドキッとして、ゆうすけとは違う頼りがいのある背中が揺れます。
それは…あまりにも間違った…まなは岩にあたる水の流れのようにスルスルと、その背中からしゅんくんの方に回り込みます。なぜか俯くしゅんくんを、下から覗き込んで…)
責めてないよ?
これは…まなのわがまま…かな?
まなも、りつとしゅんくんが一緒になる事、ホントに嬉しい。それは変わらないよ。でもね?
まなの大事な大事なりつをあげるんだから…しゅんくんも…あと一歩。まなに…近づいて欲しい…な?
まなの中のりつの事も…あなたには、知っておいて欲しい…って…思うんだ?
(まなはそのおっきな身体を精一杯抱きしめます。
責めてないよ?寧ろ祝福してる!その気持ちを伝えるようにぎゅっと力を込めて…)
【家族という輪の中で、近づきすぎたゆうすけさんから離れていくりっちゃんと、自分たちの距離と同じ所を廻って欲しくてしゅんくんの手を引き寄せるまなちゃん。4人、同じ距離で暖かい絆の周りを回りたい。2人とも言葉はなくとも思う事は同じです。
まなちゃんもりっちゃんも、お好きなように応えてあげてください】
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