ゆりな…
(律子のように声をかけられて、まなみは胸がズキン!と、ナイフで抉られたような痛みを覚えます。
「バカね…そんなことなんて事ないわよ?」
「まなが元気なら、あたしはそれでいい…」
その傷口から、律子が答えるであろう言葉の数々が染み出していくような気もして…ボロボロに泣きたくなるのをグッと堪えて、無理に笑顔を作ります)
あ…あのね?愛知のおばあちゃんが、具合悪くなっちゃったみたいなの…だから…だからママ…行かなくちゃ…ちょっとの間、ママ留守にするから…ね?パパ?
(ゆうすけさんは、振り返ったまなみの顔に胸を痛めます。隣にいた唯もまた…その場はわかったとしか言うしかありませんでした)
「…かえってくる?」
ばかね、当たり前じゃない。ママは必ず帰ってくるよ?約束…ね?
「うん!おばあちゃん、早く元気になるといいね!」
そうだね?…ゆうすけさん、唯ちゃん…この子達、よろしくお願いします…
(翌朝、まなみは荷物をまとめて家を後にしました。どこでかけ違えたか、どれだけ狂っていったか…理由はまなみ自身がよくわかっていました。
ただ、それを今口にするわけにはいかなかったのです。これからの自分という答えが見つからないからです。)
「…そうかぁ…そんな事があったのか…」
「はい…わたしもゆうすけさんも…何も言えなくて…出て行くあの子の背中、ただ見ているだけしかできなくて…」
(あの事件以来、唯は大将の店によく顔を出すようになりました。愚痴を吐いたり相談したり…)
「…で、ゆうちゃんのとこはどうすんだい?」
「ええ、今日はお休み、明日は有給使ってゆうすけさんが面倒みるみたいです。わたしもできるだけ力になるつもりですが、なにぶん日中は…」
「そうか…おおい、美由紀!」
「はあい!…うん、また後でね?…どうしました?」
「おまえ、ちょっとしばらくゆうちゃんとこいって、ガキンチョの世話してやってくれ」
「ちょ…大将!そんな…みゆきさんにわるいわよ」
(あわてて止めに入る唯を、みゆきは止めます。)
「事情は、今のんちゃんから電話で聞きました。ゆうすけさんがお休みの理由、高田くんには話してくれたらしくて、そこ経由で。
あたしでできることならなんだって言ってください。受けた恩は大きいですから、遠慮しないで頼って…」
「よし、決まりだな!あとは…お嬢ちゃんしだいか…」
(波紋が思わぬ大きさになっている事を知らず、まなみはゆうすけさんに愛知に着き、定期的にメールを送っていました)
『ゆうすけさん、風邪ひいてませんか?祐一、お腹壊しやすいから気をつけてください。
こちらは山間だけあってそちらより寒いです。お母さんからは怒られましたが、口裏は合わせてくれるそうです。
唯ちゃんから聞きましたが、みゆきさんが日中子供達のお世話してくれるみたいですね?帰ったらお礼しなきゃ…
まなは今、よく空を見るようになりました。
りっちゃんには、相変わらず連絡がとれません。たぶん、星野くんが止めてるんだろうかと…
この空…りっちゃんに繋がってる…
ここに来た時は、いっそあの子の事を忘れてしまおうと思いました。それだけの事をまなはしたから…
でも、まなはやっぱりりっちゃんが好き。
あんな醜い気持ちでなく、愛してる。心の中に必要…だからこそ、あの子が、みんなが納得できるこれからのまなを用意してから、かえります。
その時は…抱きしめてください。そして…ちゃんとあなたを見つめて…また一つになりたいです…』
「風邪…ひくわよ?」
おかあさん…
「前来た時は…お母さんのところに、りっちゃんがいたよね?」
…うん…
「…ただ待つ事に…あせってる?」
!どうしてそれを?
「うふふ…これでもあなたのお母さんよ?あなたが悩んでることくらい、わかるわよ?」
…わかってたんだ、まな。いくら活躍してどんどん先に進もうと、あの子は、大事な部分はまなに置いておいてくれてるって…
ゆうすけさんは、昇進して高田くんって部下もついて。
唯ちゃんは学校で大事な仕事を任せられそうな時。
のんちゃんも、高田くんと一緒になる為に頑張ってる。新しく友達になったみゆきさんも、前向いて別人みたいにいい子になって…
まなだけが…何も変わってないのかなって…そう思ったら…今のままでいいのかなって…
「なら…さ、欲張りに待ちなさいな?
りっちゃんは、まなと一緒になりながら、広く大きく伸びることを選んだの。それが、あの子が咲かせる花。あなたとりっちゃんという根から伸ばして、みんなに見せたい自慢の花。じゃあ…あなたは?」
おかあさん…おかあ…さん…
(答えの糸口が見えたようです。まなみの瞳に、陽だまりのような暖かさが戻ってきました。バラバラになった魂の木の根が、瞳の暖かさを目指して集まってくるような感じがします。
大粒の涙をこぼして、母の胸に顔を沈めるまなみ。
何度も頷くまなみの肩をそっと握ると、顔を上げさせます)
「もう大丈夫かな?家出娘?」
…うん!きめた!もう迷わない!
ありがと、おかあさん。明日、朝一で行くわ!
「いってらっしゃい。また、何かあったら…帰っておいで?」
うん…でも今度はみんなでね?
【長くなってごめんなさい。やっぱりね、つらいまなちゃんを長く続けるのは、あたしもつらくて…答えは見つけましたが、問題はここから。岡山に帰る前に、まなちゃん神戸に…はじめて神戸に、りっちゃんに会いにいきます】
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