吹っ飛ばされたまなみを抱え僕は律子の姿を見て、思わずまなみの頬をぶつと「…いたいっ!
…なによ!なんでよ!みんなしてりつこばっかり!
あたしの気持ちはどうでもいいの?
わけも分からず連絡の途絶えたりつこの事を、どれだけ心配したか…毎日身が引き裂かれる想いだったのに!知らない電話が鳴る度にビクビクして!」とそこまで聞けば同情も出来たけど、「手をどれだけ伸ばしても!どれだけ心を想わせても!あたしからいなくなろうとしているりつこを取り戻そうとして何が悪いのよ!」と言われたら…
「いい加減にしろ!まなみ!」と僕は言ってもう片方の頬をぶった。
「悪い、みんなこのままじゃ話にならない…唯さん悪いけど、子供たちの面倒を頼む」と言ってまなみを抱えた。
「いたいっ!
イヤだ!いやだぁ!りつこ!りつこりつこ」と半狂乱になってりつこの名を叫ぶまなみ。
俯いたままの律子を見ながら家を出て車にまなみを押し込み発進した。
裕介さんたちが家を出た後
「律子、僕たちも帰るよ?」「えっ?帰る?
待って瞬一!まななら少し頭を冷せば間違いに気づくから、またいつも通りのあの娘に戻って帰って来るから…お願い…瞬一…」「律子…こんな姿にされて!まだまなみを信じているの?」「いまこんな形で別れたら私たち…瞬一!瞬一!お願い待って!」「律子!いくら律子のお願いでも、これだけは譲れない!もし、まなみが元に戻ったとして帰って来ても、今度は僕が律子に見せれない姿を見せてしまう!」と話ながら律子の手を引いて外に向かっていると…
「ちょ…ちょっと!離してよ!
ゆ…唯!まなに伝えて!あたし待っているって!待っているからって!」と律子は言って僕に引かれて出て行った。
そしてたまたま通りがかったタクシーに乗って駅へと向かった。
僕はまなみを乗せて以前まなみと蕩ける様に一つになった高台の駐車場に車を停めた。
駐車場に着いた頃には辺りは日が暮れ始め、眼下に拡がる街並みからは明かりが灯りあの時と同じ綺麗な夕焼けから夜景に変わる様が拡がっていた。
しばらく走っているうちにまなみは落ち着いた様子を見せていたが、「…手…繋いで…」と言って手を伸ばしてくるが、僕は前を向いたまま険しい顔をして、無視していると…
「無視しなくてもいいでしょ!
あたしだってさっきの事はダメな事をしたって思っているわ!だから!手を握って話したいって言っているじゃあない!」って言うまなみ。
僕はまだまなみは何が悪いかわかっていないんだ…口調も変わっていないし、だから僕は「今のまなみに何を言われても聞く気にはなれない。」と言った。
「どういうこと?今のあたしって!」と言うから僕は「今のお前の顔を良く見て見ろ!」と言ってまなみの頭を掴んで、無理矢理ルームミラーに顔を写して見せた。
「ちょ…裕介痛い!離して!はなし…
これ…誰?
なに…?この目…真っ暗で…怖い…醜くて…ドス黒い何か…感じるよ…
そっか…あた…まな…こんな酷くて醜いままでりっちゃんに迫って…ほし…のくんも…傷つけた…ゆいちゃんも多分いま…泣いている…
それに裕介…さんにまで…まな…まな…」と言ってようやくまなみが戻ったので、優しく抱きしめようと手を伸ばすと
「触らないでっ!
まなは…いま…そこに行く資格…ないんだ…ごめんね…ゆうすけさん。」とすまなさと悲しみを称えた涙ながらの笑顔で優しく拒絶された。
まずはみんなに謝りたいと言うまなみ…僕は車を家に向けて帰ると…
唯さんがまず迎えに現れ「まな!お帰り!」「ゆいちゃんただいま…ごめんね?ごめんね?」「瞳…見せて…よかった…戻っている…」と話をした後、律子たちの姿がないのに気がつき…
「まなどうかしていた。
多分…その理由もわかっている…まずは…りっちゃんたちは?」「帰った…わ…星野さんに連れ去れる様に律子も。『待っている』って律子から伝言…」と唯さんが言った後、まなみはストンと座り込み…
「えへ…えへへ…やっ…ちゃった…
大事な大事な…なくしちゃった…
いや、まなが壊したんだ…りっちゃんとの絆を…
星野くんの信頼を…まなが…まなが…」と乾いた笑いでなにもなくなった瞳をして言った。
僕と唯さんは何も言えずまなみの後ろで立ちすくんでいると「…ねぇ、ゆうすけさん?
まなしばらく…愛知に…帰っていいかな?ひとりになって想い直したいの…」と振り向きもしないで言われて…
改めて律子たちが居なくなった部屋は大きな何かが抜け落ちたような変な雰囲気が漂っていた。
この家は律子にとっても大切な場所だった筈なのに…律子はもうこの家には来ないようなそんな嫌な雰囲気さえ漂っている感じさえしていた。
しかも魂の根っこから真っ二つに引き裂かれ、全てを失ったかの様に頭を垂れるまなみの姿に僕も唯さんもかける言葉が見当たらず、ただ時計の音だけ部屋に響いていた。
その沈黙を破ったのは僕たちの話し声で目を覚ましたゆりなだった。
「ママ?帰ってきたの?」と眠い眼を擦りながら…
僕は咄嗟に「ママは今、ちょっとお疲れ様だから…今夜はパパと一緒に寝ようね?」と言ってまなみから遠ざけて再び寝かそうとゆりなの手を握るけど…
「ママ?お顔を見せて?何かあったの?」と子供なりに何か察して声をかけた。
それはまるで律子がまなみに何かあった時にかける口調に似ていた。
【ゆうすけも唯さんもかける言葉がないので、ゆりなにかけてもらったけど…
元に戻ったばかりのまなちゃんには辛いだけだったかな?】
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