(突き飛ばされて大きく転げていくまなみ。起き上がった瞬間みたものは…
ほぼ全裸に近いくらいに剥かれて、衣服が乱雑に乱され、怯えて泣きながらもまなみを心配してこちらを見る律子。思わず差し伸べた手に対して律子は…)
「いやっ!やだこないで!触らないでっ」
(律子は、とにかくまなみの瞳が怖くて仕方なかったのです。それは以前自分が堕ちた暗く冷たいプールの水と同じ漆黒…はっとした時には、すでにしゅんくんの胸の中に守られてしまいました)
「あ…あたし…そんなつもりじゃ…きゃ…」
(言葉を遮られてぎゅっと強く抱きしめたしゅんくんの腕は震えていました。続いてバシンッ!となる乾いた音。言葉を失い泣きながら音の方を見ると…)
…っ!いたいっ!
…なによ!なんでよ!みんなしてりつこばっかり!
あたしの気持ちはどうでもいいの?
わけも分からず連絡が途絶えたりつこの事を、どれだけ心配したか…毎日身が引き裂かれる想いだったのに!知らない電話が鳴る度にビクビクして!
手をどれだけ伸ばしても!どれだけ心を想わせても!あたしからいなくなろうとしてるりつこを取り戻そうとして何が悪いのよ!
っ!いたいぃっ!
(溜め込んだ思いの丈を思慮なしにぶちまけるまなみ。ゆうすけさんはもう一発反対の頬をぶつと、まなみの無理矢理抱えて家を出ます)
いやだっ!やだああああっ!
りつこ!りつこりつこりつこおっ!
(呼ばれた律子は何も答えられず俯いたままでした。その気持ち…痛いほどわかる。けど、今のあの瞳のまなには振り向けない。悲しいくらい複雑な表情で出て行くまなみを目で追います。そして矢継ぎ早に…)
…え?帰る?
まってしゅんいち!まななら少し頭を冷やせば間違いに気づくから、またいつも通りのあの子に戻って帰ってくるから…おねがい、しゅんいち…
いまこんな形で別れたらあたしたちもう…
しゅんいち!しゅんいち!お願い待って!」
「…こんな姿にされてまで、まだまなみを信じるのか、律子!」
「ちょ…ちょっと!離してよ!
ゆ…唯!まなに伝えて!あたし待ってるって!待ってるからって!」
「…どうなっちゃうの…わたしたち…どうして…こうなったの?」
「…あれ?ゆいおねえさん?ママは?」
「あ、ゆりちゃん…ママたちはね?ちょっとお出かけするって?お姉さん、留守番頼まれたの…
りっちゃんたちもね?急に用事できて…これなくなっちゃった…」
「そっかぁ…残念だなぁ…
?お姉さん、どうして泣いてるの?っ!ちょ…力強いよ!ちょっとぉ!」
「ごめんねゆりちゃん…ごめんね…ごめんね…」
(嫌な空気だけが残る部屋に1人残された唯。起きてきたゆりなをきつく抱きしめると、崩れ落ちて泣いてしまいました。
その頃、車で連れ出されたまなみは、律子の言う通り、時間が経つにつれて自分のした事言ったことを冷静に捉え出しました。でも瞳はあのまま…
ゆうすけさんは以前にまなみと蕩けるように一つになった高台の駐車場に連れて行きます。日も落ち始め、眼下の街に灯りがともりだします。)
…手…つないで…
(自分がした恐ろしい事…一人で受け止めるのが怖くて、まなみは手を伸ばします。ですが、ゆうすけさんは険しい顔で前を見据えたまま…)
無視しなくてもいいでしょ!
あたしだってさっきの事はダメな事したって思ってるわ!だから!手を握って話したいって言ってるじゃない!
「今のまなみから何を言われても聞く気にならない」
?どういうこと?いまのあたしって!
「今のおまえの顔をよく見てみろ!」
ちょっ…ゆうすけ痛い!離して!はなし…
…これ…だれ…?
(ゆうすけさんに無理やりルームミラーを向けられて頭を掴まれて見せられたその顔は…)
なに…?この目…真っ暗で…怖い…
醜くて…ドス黒いなにか…感じるよ…
…そっか…あた…まな…こんな酷くて醜いままでりっちゃんに迫って…ほし…のくんも…傷つけた…
ゆいちゃんもたぶんいま…泣いてる…
それにゆうすけ…さんにまで…まな…まな…
(自分の姿を見せられて、初めてまなみは我に帰ります。「あたし」から「まな」へと戻り、それぞれを傷つけたことを後悔して…
ゆうすけさんはここで初めて抱きしめようと手を伸ばします。ですが…)
触らないでっ!まなは…いま…そこに行く資格…ないんだ…ごめんね…ゆうすけさん…ごめんなさい…
(すまなさと悲しさをいっぱいに称えた涙ながらの笑顔で、やさしく拒絶します。まずはみんなに謝りたい。車を出してもらい家に帰ると…)
「まな!おかえり!」
唯ちゃんただいま…ごめんね?ごめんね?
「瞳みせて…よかった…戻ってる…
もう嫌よ?あんな目はもうあの時っきりで、二度と見たくない…」
うん…まな、どうかしてた。
たぶん…その理由もわかってる…まずは…
…りっちゃんたちは?
「帰った…わ…星野さんに連れ去られるように律子も。『待ってる』って律子から伝言…」
(まなみの中で何かが音を立てて崩れ落ちて行きました。そのままストン…と座り込んで、何もなくなった瞳で乾いた笑いを浮かべながら…)
えへ…えへへ…やっ…ちゃった…
大事な大事な…なくしちゃった…
いや、まなが壊したんだ…りっちゃんとの絆を…
ほしのくんからの信頼を…まなが…まなが…
…ねえ、ゆうすけさん?
まな、しばらく…愛知に帰って…いいかな?
ひとりになって…想い直したい…の…
(まなみの後ろでどうする事もできずに立ち尽くすゆうすけさん。律子たちがいなくなった部屋は、たしかに大事な何かが抜け落ちたような変な気配が漂います。
まなみは振り返る事なく、感情のない口調で、しばらくひとりになりたい…とお願いしました。
魂の木を根っこから真っ二つに引き裂かれ、全てを失ったかのように項垂れるまなみに、唯もゆうすけさんもかける言葉が見当たりませんでした…
ただ、時計の音だけが部屋に響きます…)
【ほんと、まなちゃんにこういうことさせるのは辛いです。言葉を選んじゃうし…
黒い感情の答えは見つけたようですが、それを伝える事ができず…】
※元投稿はこちら >>