律子と色々な場所を巡り、夜になると僕はこれまで我慢していた分、耳元で甘く囁き激しく求めると、律子はちゃんと応えてくれた。
どんどん以前の律子に近いくらい戻った気がした。
ただ以前と違うのは、律子がこれまでのしがらみをほどき誰のものでもない僕だけの律子になったという事だけ。
やがて僕たちが再び出会った札幌へと入り「…ここで…また会えたんだね?あたしたち。
偶然だったのかなぁ?」と小樽の公園の東屋で夜景を眺めながら言う律子。
「あの時は偶然と思っていたけど…今となったら、出会う運命だったと思えるよ?」と言って瞳穏やかに眺める律子の手を握った。
「…あたし…やっぱり水泳…辞めるわ。
あなたとこうして一緒に旅して、触れ合って、穏やかな毎日を知っちゃうと…もっと穏やかにって望んじゃうの…」と律子は僕を真っ直ぐに見て言う律子。
その瞳はとても穏やかで水泳に夢中になっていた時の闘争心がなくなっていた。
僕は戸惑っていた…あの泳ぐ前の誰にも負けない!真っ直ぐ前を向いた強い闘争心のこもった瞳の色がなくなっていて…
「…結婚して…子供が出来てね?2人で夕飯を作りながら「おとうさんまだかな?」って待つの。素敵だなぁって…」と言う律子の意志が揺るがないって感じて僕は静かに抱きしめ「それでいいの?」と聞くと黙って頷く律子。
「そっか…それを律子が選ぶならで」と言って優しく頭を撫でた。
札幌では前と同じホテルに泊まり、あの日と違うのはシングルではなくダブルの部屋という事だけ…僕はあの日を思い出しながら律子を抱いた。
それからは律子は特に変わった変化は起こらず最終日を迎えた。
「楽しかったなぁ…今夜でもうおしまいか…
くる前のあたしとは全く別人になった気分。
瞬一…ありがとね?」「本当…楽しかったね?律子にお礼言われて嬉しいよ?」と話をしていると不意に鳴る律子の携帯。
相手は律子が留学先で競い合ったライバルのジョディ。
流暢な英語で話をする律子。
明るい話し声が穏やかになり、そして言葉が詰まり…唐突に怒鳴り声のような大声が聞こえ、電話が切れた…
律子は携帯を持ったまま俯いていた。
「…ジョディにね?水泳辞めるって言ったの。
それをあなたが選ぶなら、って…でもオーストラリアでつかなかった決着はどうするだって…白黒はっきりつくまでアタシ達は泳ぎ続けるって約束…破るのかってねって…怒られた。」と震える手の上に涙が落ちた。
僕はその手を握ると顔を上げた律子の瞳を見て僕は息を呑んだ。
涙に濡れた瞳が、先ほどまで穏やかな瞳の色がゆらゆらと揺らめく様に瞳の奥に火が灯った、そんな感じを受けたからだ。
律子は涙を拭い、ライバルの言葉を思い出す様に言うと瞳の炎の色が更に燃え上がる様に強くなった。
「もういいって…辞めてあなたの側に離れず、ずっといようと決めたのに…とまらないよ、胸の奥の熱いのがこみあげるのがとまらなくて仕方ないんだ…どうしよう…」と胸の間にぎゅうと押し当てて言う律子。
「律子?まだ水泳を続けたら良い。
その胸の奥の熱さに正直になったら良い。
なに、僕は律子の側から離れたりしない!
今の律子ならやれる!
ちゃんと長年のライバルと白黒つけて、勝って、律子が納得するまで泳ぎ続けたら良い!
律子が納得して、もう競技としての水泳が満足してから僕の側にいても遅くはないよ?」と言って律子の手をぎゅっと握って、律子の瞳を見て言った。
「やっぱり律子はこうじゃないとね?
子供と家で僕の帰りを待っている律子の姿も良いけど、自分の好きなことに打ち込んでいる律子の姿も僕は好きなんだ。」と言って律子の背中を押した。
【まなみさん、かなりお待たせしてごめん。
連休中、バタバタしていて、書き込む余裕がありませんでした。】
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