「りつこ…」
ん、なぁに?
(タクシーの中、たどたどしく名前を呼ぶしゅんくん。律子は振り向くと、バツの悪そうな彼をみて笑います)
呼んだだけ?
…呼び方、すぐに慣れるよ?
あたしだって、ちっちゃいあたしがそう呼んでたのを思い出して真似してみた時、すっごく頭がクラクラする思いしたもん。
でもそこからは何かストン…と落ちるものがあってね?もう一歩あなたの中に入り込めたような気がして、嬉しかった…
それに…今みたいに「律子」って呼んでくれるしゅんいち…前よりもすごく頼もしくなった気がするんだ…(ニコニコしながら彼に身を寄せて腕に抱きつきます。会話をするうち、触れ合ううちに、無くしたものが埋まっていく律子。もうその笑顔にこの間までの喪失感はありません。しゅんくんは、黙って微笑むと、律子の頬を撫でます)
今回は函館の方に行くんだよね?
…札幌も?小樽も?欲張りな旅だなぁ…
しかも初めからあなたと一緒なんだもん。
ずっとふたりで…嬉しいなぁ…
…これからのこと、ゆっくり考えるにはいい機会だね?たとえトラウマが治ったとしても、そんな未来のを少しでも受け入れちゃうと…揺らいじゃうから…
(しゅんくんふくめて、周りのみんなはまだまだ律子には泳いで欲しい気持ちがあります。ですが、まなみのように家を守って自分の帰りをいつも待ってるくれる律子の姿もまた、何物にも変えがたく…)
…ふふ?しゅんいち、迷ってるでしょ?
現役続けさせるかどうか…
正直なあたしの今の気持ちは…もうこのまま水泳辞めてもいいかなって思ってる。
穏やかに、ゆったりと暮らして…ずっと神戸で、大好きなあなたのそばにいるの…
ま…まだわかんないけどね?
『…失礼、もしかしてあんた、竹田律子さん?』
あ…はいそうです…が…
(タクシーのドライバーさんに話しかけられて、律子はキョトンとしながらも返事をします。途端にしゅんくんが守るように軽く前を塞ぎますが…
律子は静かに首を横に降ります。)
『話聞いちゃってごめんね?うちに娘がいてさ、スイミングやってて…いつもりっちゃんりっちゃん!って言うから、顔と名前、覚えさせられちゃって…』
あ…はは…それは…どうもです…
『急に休むって前に発表あったでしょ?
一家全員で心配してたんですけどね?その様子じゃ大丈夫そうだ。』
…え?
『何があったか、どうするのかは私が関与することじゃないしできないけど、今のりっちゃんの目、ちゃんと自分で決断するって目してるから。
ほら、私こんな仕事だからいろんなお客さんみてるでしょ?だからなんとなくわかるんですよ?』
あ…ありがとう…ございます…
『どういたしまして。ところで、そちらのおっきなお兄さんは?』
はい、夫です!
(まだ早いよ!とあわあわしながら律子の口を塞ごうとします。でも律子はその手をとめ…)
…いいじゃない?書類や式なんてただの手続きなんだもん。ふたりの気持ちがそうなら、もうあたしたちは夫婦だよ?
それにこの方、ちゃんと公私はわきまえる人だよ。
あたしはそう思うから。
『ありがとね?ただ、話の中身は何も言わないけど、娘にはりっちゃんがお客さんで来たって、内緒で自慢してもいいかい?』
…はい。娘さんにもないしょね?って…お伝えください。
『わかった、そうするよ。
…って言ってる間に、着いたよ?』
(タクシーのドライバーさんが言う通り、瞳に力を取り戻していた律子。でも…まだまだ無くしたものはたくさんあります。それでも、笑顔が戻っただけ随分…と、しゅんくんは嬉しそうに走り去るタクシーに手を振る律子を見つめています)
…なに?
(あわてて目を逸らすしゅんくん。
律子はクスリ…と微笑むと、彼の襟を掴んで耳に顔を近づけさせます。そして恥ずかしげに囁くのでした)
…あたし…今夜…抱かれても大丈夫なような…気がする…
…して…みる?
(いい終わると顔を真っ赤にして彼の胸の中に逃げ込みます。しゅんくんはそんな律子を愛おしそうにギュッと抱きしめるのでした)
【ちょっとエッチ分が欲しくなっちゃいました。
トラウマの事もあるけど、したくなってきちゃったなぁって思って…】
※元投稿はこちら >>