(しゅんくんに促されて、起きた律子は窓辺に。
濃い碧に彩られて白み始めた空。そこに水平線から昇る朝日が律子を照らします)
うぁぁ…き…きれ…い…
きれいだね…しゅんいち…
(朝日を、というより海面に伸びた自分に向かってくる一筋の光をじっと見つめます。
きれいだね…と一言いうと、ふいに涙が。
しばらく気づかなかったようで、しゅんくんに言われて初めて…)
…え?あ、あたし…どうしたんだろ…
やだ…とまんない…おかしいな…おかしいなぁ…
(笑いながらも涙は止まらず、拭っても拭っても溢れてきます。
しゅんくんは律子を肩に抱くと、律子はそっと寄り添い、二人で同じ方向をみつめていました。
ふと律子を見ると、溢れ落ちる涙は収まったようで、また少し温かみが戻った笑顔で律子はまっすぐ見ていました。
ふたりは何も言わず、明るくなっていく海を見つめ…時計の針と波の音だけが部屋に響きます)
…ねぇ…?
しゅんいちは…まなが許せない?
はっきり言っちゃえば、自分が蒔いた種で起こった事なのに、どうしてあたしだけがこんな風に苦しまなきゃいけないんだって…
まなだけ笑って救われて、どうしてあたしだけがまた壊されなくちゃいけないんだって…
そう…思ってるでしょ?
(外を見つめたまま、律子が唐突に切り出します。
律子の事を想うと、そうだ!とは言い切れず沈黙します。
ですが律子はその沈黙の答えを見抜き…)
そうだよね?
確かにそう。いつもあの子は暖かく笑ってる。
でも…考えたことない?どうしていつも笑ってるかを…
あたたかく、やさしく、お日様みたいなまなが当たり前になってるから、
みんな想像すらしないだろうけど…けど…
(律子は意味深な言い回しをして、黙ってしまいます。
まるで何かをためらっているかのよう…聞きだしたい気持ちを抑えて、
しゅんくんは静かに待ちます。それを察した律子は)
…ありがと。しゅんいち、あたしのこと…心の中までわかってるみたい…
今からの話は…あたしとまなだけが胸に一生しまっておこうって決めた事。
たぶん…ゆうさんも知らないわ…
でも、あたしは話す。しゅんいちには聞く権利があるし聞いて欲しいの…
あれはね…?まだまながあっちにいて、記憶の整理がつかなかった時の事。
あたしはまなの所に遊びにいって、夜の公園でふたりでいろいろ話してたわ…
山あいだから星がものすごく綺麗でね?
そこで…あたし…それまでの生活に耐えきれずに、まなにぶちまけちゃったの…
今、しゅんいちが思ってるのと同じことを、しゅんいちよりどす黒い感情そのままにして…
…おねがい…手…つないでて…
(出された手をしっかり握り、律子の告白を聞きます)
「…りっちゃん…そんなことを…ずっと?あれから…」
そ…そうよ!まなだってうっすらと思い出してるでしょ?
あたしが!まなとむきあってるその背中にどれだけの傷をつけられたか!
心無い好奇心やいらない同情…人と関わりたくなかったから距離をとっていれば
生意気だのって言われて…あげくには、よくまだここにいられるよね?って…
(なにがきっかけだったかは覚えていません。綺麗な星空を見て、心の中の汚いものを精算したかったのかも…
いつのまにかボロボロ涙をこぼして吐き出す律子を、まなみはいつものように笑って、でも少し悲しそうに聞いています)
その笑顔!いつもいつも笑ってばかりで!
その笑顔を向けられる度、あたしはどれだけ…どれだけ…どれだけぇ!
(ベンチに座っていたまなみは立ち上がると、そっと律子を胸に抱きしめます。
まるで本当の傷を労わるように背中を何度も何度もさすり…
止まらない感情の嘔吐に、律子もまたまなみをだきしめて、その胸の中で叫び続け…)
「…ごめんね…ありがとう…律子…
まなは…怖いんだ…知らない事が怖い…
無意識で閉めた記憶の蓋。開けない方がいいのかもだけど…
怖くて怖くて…だから…笑うしかないの…」
っ!まな!…あたし…あたし!
「ううん…りっちゃんは悪くない。ただ…笑っていないとおかしくなりそうで…
それに…笑っていれば…まなに関わったみんなが…幸せになれる気がして…」
(ここまで話を聞いて、しゅんくんは初めてまなみという人間を形作る根本に触れた様な気になりました。
固く握られた手に、律子はそっともう片手を添えます…)
…そう。あたしが「まなのことを誤解してる」っていうのはそういう事…
あの子は、ただ周りに幸せをもらって笑っているわけじゃないの…
それは…後悔と自責…自分のせいで、クラスのみんなが、あたしが、あんな風になっちゃったって、いつも思ってる。
本当はそうじゃないんだけど…でもあの子はそれを許さない。
記憶が戻った今でも…今だからこそ自分で自分を責め続けて…あたたかく笑う事で…
(律子は力をこめてもたれかかり、しゅんくんといっしょにベッドに倒れこみます。
その手はつないだまま、感情が昂ったまま長いキスをかわし…
唇を離した律子の瞳は…また少し灯が戻ってきたよう…)
しゅんいち!あたし、今のままじゃいけないの!
あたしがこのままじゃずっと…あの子は笑うわ…贖罪の笑顔で…
あたたかさの影にすまなさを隠しままずっと…
これが…あたしがずっとまなに守られてるって言ったわけ…
あの子はいつでもずっと…変わらない暖かさであたしを包むの。
だから…あたしもまなも…もう終わりにしなきゃ…あの地獄の思い出から…恐怖から…
のんちゃんやさやかは言ったよ?昔のまなが戻って来たって…
でもあたしに言わせればまだ仮初の笑顔よ…
(今度は律子が手を握る力をこめます。決意をこめた…)
…しゅんいち?今回の旅行で…あたしをバラバラに壊して!
それで…あの子にもう一度会った時、全部もう大丈夫!って言えるように…組み立て直して欲しいの…
そうすれば…あたしもあの子も、周りのみんな全部が…今度こそ本当に救われるんだ…
そして、それができるのは…あなたしかいないんだ…
ゆうさんは…あたしに立ちあがるきっかけをくれた。
今度はしゅんいちが…あたしを歩き出せるようにしてほしいの…
昨日も言った通り…どんな答えがでるかわからない。
水泳…やめちゃうかもしれない。わからない…
トラウマ…なおらないかもしれない…でも!でも!
(しゅんくんの頬に、ぱたぱた…と涙がおちます。先程の涙とは違う熱い涙…
律子は涙に瞳を潤ませながら、一歩ずつ…一歩ずつ何かを取り戻しながら笑って言います)
おねがい…これまでのあたしは、まなに支えられてきたの…
あたしたち…根っこで繋がってるけど、だからといって花まで絡まる必要ないんだよね?
…まなのことは愛してる!だからこそ…あの子も…あたしも…そろそろそれぞれから…独り立ち…しなきゃって…想ったの…
だから!だからお願い…これからの一生は…あなたの手であたしをイチから組んで…あたしを支えて…ください…
(その答えを聞かず、律子はしゅんくんの頭を抱えると、再びキスを始めます。今度は熱く激しく…
まるであの朝日が引き金になったかのように…律子は今までのまなみに贈る最後の答えを探そうと歩き始めました)
【ゆうすけさんの納得できる答えになったかしら?
なんだかゆうすけさん自身が今回のお話のりっちゃんの答えに納得してなかったような気がして、
返事に悩みましたね…まなは大事。でもしゅんくんはもっと大事…
だからこその、りっちゃんの回答がこれです…】
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