僕は律子ちゃんに旅行の本当の目的を告げると「やっぱりね…そんな事だろうと思ってたよ?でもね、瞬一…今回ばかりは…無理かもしれないんだ…
あたし…壊れちゃったみたい…なの…」と穏やかに微笑みながら言う律子ちゃんに僕はゾッとした。
本当に狂ってしまったのか?と思って…僕の話もまるで底の抜けた桶に水を入れるが如く、流れて行っているようで…今の律子ちゃんは自ら言っていた様に笑う事以外の感情が欠落して壊れてしまったのか?と思い、僕は自然に手が震えてしまった。
まなみさんの事を言うと「…まな?
それは無理だよ?あの娘とは魂の根っこのところで繋がってるみたいな感じがするほど近いの。
だから…」とまなみさんとの強い絆を淡々と語る律子ちゃん。
僕が抱きしめようと伸ばした手を律子ちゃんはいなし「…あたしはまなを離せない、離したくないんだ…
今のまんまじゃ、瞬一もまなもお互いを誤解している。
あの件は、前にも言った様にみんなが悪いの…」とまた同じ事を言われて僕は困惑した。
あの件の話だけなら、それで理解は出来るけれど!だけど、その事件で心が抉られた律子ちゃんがこんな事になっているが、僕は理解出来ない。
魂の根っこ部分で繋がっているならどうして、どうして…
律子ちゃんはまなみさんに今まで守られているのなら、この仕打ちはなんだ!
まなみさんの存在が、律子ちゃんのトラウマを起こして苦しめているのに、何故?
それだけ律子ちゃんにとってまなみとの出来事はあの事件以外は特別だったに違いない。
それじゃ…僕の存在は一体…
律子ちゃんは僕の事を障がいをずっと添い遂げる人っていうけど…
僕がまなみさんを誤解している?その言葉の意味が僕にはわからない。
この事件が起こる前の僕なら2人の繋がりって良いモノだなぁ…って思っていたけど…
そんなモヤモヤした気持ちでいると僕の手を頬に当てて頬擦りをすると律子ちゃんが「あったかい…おっきな手…
ありがとね?本音、聞かせてくれて。みんながみんなあの結末で納得出来る訳ないもんね?
瞬一があたしの事、大事に大事に思えば思う程納得できずにモヤモヤする気持ち、良くわかるよ?逆だったら同じ事するもの…
…わかった。
まなの事を含めて、掘り起こされた過去の恐怖に…ちゃんと向かい合ってみる。
この旅行で、これからの事を決めようと思う。
それであたしがどんな答えを出したとしても…
この手は離さないでね?ずっと…温もりが…届くところにいて…それが出来るのはあなたしか…いなんだ…お願い…」と言って笑う律子ちゃん。
「わかった。律子ちゃんが出した答えがどんな答えかわからないけれど、絶対に何があっても離さないし、…温もりが届くところにいるよ?」と答えて微笑んだ。
律子ちゃんのその微笑み方が今までの微笑み方より前向きな感じがして、僕は嬉しいけど、まだまだこれからだ!これが僕たちの始まりなんだ!
そう思いながらも律子ちゃんと長い長いキスを交わした。
はにかんで微笑む律子ちゃんがゆっくりと静かに僕の胸の中に収まり眠りだした。
僕は労る様にそっと頭を撫でながら…しかし僕がしたことは本当に間違っていないだろうか?
さっきはあんなふうに思ったけれど、やっぱりまなみさんと話し合わないといけないだろう…まなみさんにとっても辛い過去だから…でもこのままでは律子ちゃんが壊れたまま…
この旅行でいずれにせよ律子ちゃんの中の何かがはっきりする筈…
僕は律子ちゃんと一生添い遂げるつもりでいるだけど、この過去の呪縛を律子ちゃんもまなみさんも打ち破らないと明るい未来はこない気がする。
そうして僕は律子ちゃんを抱き上げてベッドに移り、一緒に眠りについた。
あれから僕は律子ちゃんを抱けずにいる。
抱いている最中に律子ちゃんがあんなふうになってしまったことと、律子ちゃんが体調を崩したということもあって、僕から夜の営みを誘う雰囲気にはなれずにいた。
でもそんなことより、律子ちゃんのことが心配でならなかった…僕の胸の中で眠る律子ちゃん…確かに前みたいにうなされることはなくなった気はするけど、寝てる時間が増えていく度にそんな気がなくなって行くのがわかった。
この旅行で少しは良くなって欲しいと思って寝てると眠りが浅くなり、朝日が昇り始める頃に僕は目を覚まし、部屋の窓から明け始める空を眺めていると、ふとまなみさんが寄せ書きに律子ちゃんに対して書いたことを思い出した。
今の律子ちゃんが見ている空はどんな色をしているのだろう…
そんなことを思っていると律子ちゃんが目を覚ました。
「ごめん、起こしたみたいだね?
律子ちゃん…見てご覧?綺麗な朝日だよ?」と言って身体を起こして窓から空を見させた。
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