ねえ、しゅんいち…
夜の海って…怖いくらいに綺麗だね?
空と海の境がわからないのに、月明かりだけがさ、こう。スーッて…あたしたちに向かって伸びてくるの…
(旅行に行こうと決めてからのしゅんくんの動きは早かったのでした。律子の気が変わらないうちに、というのもありますが、何より少しでも遠く心も身体もまなみから離したかったのが本音でした。
律子は確実に少しやつれていました。夜のデッキで暗い海に映る月明かりを見ながら微笑んで話す姿はまるで別人です。この頃にしては珍しくロングスカートを履き、ストールを肩にかけて遠くを見つめる律子。以前はあの人…もしかして…と囁かれていましたが、今は周りも律子をあの竹田律子と気づかずにいます。)
…冷えてきたね?中…戻ろうか?
船選んで正解だったね?ゆっくりゆっくり…
あたし、今までずっと忙しく飛び回ってたから、こういうの、すごく新鮮…
(しゅんくんが差し出す手をとり、肩を抱かれながら中に戻ります。その仕草一つ一つが穏やかすぎて…強く抱きしめたら壊れそうな綺麗さで、それはそれでまた注目を集めそうです。
それは何も知らない人たちが見たらですが…近しい人には、中身のからっぽな危うい綺麗さ…)
あたしね?
最近考えるの…
もうこのまま…戻らなくてもいいのかなぁって…
あなたのための…あなただけの…あなたの妻になろうかなぁって…ね…
またそれなりに泳げるようになったら、近くのスイミングで子供たち教えて…しゅんいちのお仕事の帰りを家で待って…そんな幸せもありだよね?
(部屋に戻って、ゆったりとしゅんくんにもたれながら、律子は話します。これもまた律子の本音。そうなれば一番嬉しい…けど、今の律子からそれを聞くのは…どうしようもない気持ちの中で、しゅんくんは黙って律子のか細い身体を優しく抱きしめます…)
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