(…瞬一がどこかよそよそしい…
律子はしゅんくんの態度がどこか違うことに気付きます。特に携帯をわざと遠ざけるようにする事が多くなり…精神的に弱りきっている今の律子は、こころなしかやつれてさえ見えます。1日の大半をベッドで過ごして、何かの動きで腰が上がると怯えて…)
…しゅんいち?あれ?しゅんいちぃ?
(ある日、起きるとしゅんくんがいません。出かけたのでしょうか?居間には律子の携帯が。恐る恐る電源をいれて中を見ると…
水泳の関係者やスポンサーさんからの電話やメールがたくさん入っていました。でも…なにか足りない。意図的に何かがなくなっている…
その何かはわかっていました。律子はいつもは設定しない留守電を入れると、また電源を落とします)
…やっぱり出ない…ゆうすけにはまなから連絡するからとは言ったけど…どうしちゃったんだろう…
…っ!あっ…
(その頃、まなみはいつものように律子に連絡をいれます。今回もまた繋がらないと諦めていたところに留守電になりました。まなみは叫びたい気持ちを堪えて、大きく一呼吸おきます。そして…)
『りっちゃん?まなです…
身体、大丈夫?心配です。
何度連絡しても繋がらない。星野くんもなんだか素っ気なくて。たぶんきっと、まなが関係してると思います。
でも、星野くんも何か考えがあるんじゃないかな?
今までまなはあなたにたくさんたくさん助けられてきました。今回はまなが何を犠牲にしてでもあなたを助ける番…
今はこうして静かに見守る事があなたを助けることに繋がるのなら…まなは待ちます。
だから必ず、必ずまた帰ってきてください。
まなって呼んで…抱きしめて…髪…なでて…
まなは…まなは…どんなになっても…あなたを愛してます…』
(最後は涙声になってしまいました。留守電を切った後、まなみはその場にうずくまり激しく泣きます。そうは言ったものの、ほんとはすぐに駆けつけていきたい!渋るしゅんくんを押しのけて抱きしめてキスして…でも…いまはダメ…
ある意味、まなみにとって律子と距離を置くのは身を引き裂かれるのと同じくらい辛く苦しい事です。
でも…いまはそれしかないと信じて…
激しく嗚咽し、咳き込み、それでも声の限り何度も律子の名前を呼んで泣き叫んで…いつのまにか居間の真ん中で眠ってしまっていました)
まな…まなぁ…
(そしてそのメッセージを聞いた律子も、目頭を熱くさせます。あの子のためならいくらだって元気を振り絞れる、頑張れる!
抱きしめたい…その胸の中に小さなあの子を埋めて離したくない!
律子はまなみの声を心の深くにしまい、留守電を消去します。そして携帯の設定を元にもどして電源を落とし…一瞬伏せ、開かれた目には何か火が灯りかけましたが、まなみの顔を思い浮かべると同時に…)
っ!うぶっ!んぶうううっ!
おええっ!おげえええええっ!
…はぁ…はぁはぁはぁ…
なんで…どうしてよ?どうして邪魔するの!
なんで立ち直らせてくれないのよおっ!
どうして?どうしてええええっ!
(しゅんくんの心配通りなってしまいました。まなみが引き金になって思い出してしまうトラウマ。律子はその場で戻しそうになるのを必死に堪えて、台所に…ひととおり吐くと、その場にうずくまり悔しさで叫んでしまいます。)
…え?さっぽ…ろ?
(さらに日にちはすぎ、まなみからの連絡も、あれから来なくなりました。テレビであれほど騒がれていた律子の休養騒動も、話題の流れに埋もれて流れていき、律子の心を安定させます。
もうこのまま泳ぐ事はできないかも…まなともこのまま…でも…いっそこのまま、普通に、この人の妻として…
それはしゅんくんが望む最良の結果。律子もそれを受け入れようとしています。でも、しゅんくんに向ける笑顔は穏やかすぎて…全てを無くしたように空っぽの笑顔をするようになってきていた律子を見ていると、やはりこれでは解決にならないと思ったのでしょうか?突然札幌旅行を提案されます)
…なに?とつぜん。
あたしならもう大丈夫だよ?
最近は吐く事もなくなってきたし、心が乱されることもめったになくなったから。
…え?結婚前に?もう一回思い出巡りしたいの?
そう…だね?そうしよっか?
(この頃はずっとお守りがわりのようにずっと肌身離さず持っていた、亡き母のブローチ。律子は無意識にぎゅっと握りしめると、まるでその母を亡くした時のような笑顔で見つめ返すのでした…)
「まな?あれから律子には…?」
?りっちゃんに?何もしてないよ?
いいの、今はそれで。それがあの子のためだから…
「っ!なにもって!いいのそれで!
…なんて顔してるの?まな…」
(その頃、唯はまなみを誘ってお茶しにきました。
もちろん唯の耳にも律子のことは入っています。連絡を取ろうと思えば取れるのですが、まなみに固く止められていました。
近況を聞き、驚く唯。笑っているものの、その顔は不安に溢れて今にも崩れそう…唯はそっとまなみを抱きしめると、優しく頭を撫でます。
その唯の胸の中で声を殺して静かに震えるまなみ。
唯は抱きしめたまま、自分にも言い聞かせるように…)
「大丈夫…律子は必ずあなたのとこに戻ってくるわ?ただいま、まな…てね?
まなが一番つらくて苦しいだろうけど…待ちましょう?星野さんに託して…」
【ホントはすぐ神戸に行く予定でした。
玄関まできて呼び鈴鳴らして…
まなみがいる!一瞬瞳に火を灯し、出ようとする律子はしゅんくんに止められて。律子は泣き叫びますが、その声はまなみに届きません。
引き止めるしゅんくんを振り払って、インターフォンの画面を見ると…もうそこにはまなみはいなくて。またズルズルと崩れ落ちる律子を抱きとめ、なだめて寝かせて。
そっと玄関のドアを開けると、まなみはその場でうずくまっていました。必ず会えると信じて…
しゅんくんの辛そうな、そして自分に対する憤りを混ぜたような瞳で察したまなみは、思わず
「律子を返して…」と呟いてしまい、その場で口論に。その中でしゅんくんの本意に気づくと、頭をさげて謝り、律子を託して帰っていき、後日唯と会う流れに…
そんな感じで考えてました。札幌旅行も素敵な結末になりそうなので、今回は全て委ねますね?】
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