僕はまなみとしゅんくんは律子と共に、高田君は紀子とさやかさんとゆきさんを連れて大将の店に行った。
高田君は最初のうちは紀子ら5人のいるテーブル席にいて、紀子の「えぇと、じゃあ…改めて再会を祝して、かんぱーい」の音頭に合わせてグラスを合わせて、今度こそ何の問題もなく会が始まった。
因に大将が「俺の話もあるから…」と言って店を普段あまり貸し切りにはしないのに貸し切りにして貰った上に、格安の値段で大将自慢のネタを僕達にふるまってくれた。
さっそくまなみ、さやか、紀子で話を弾ませていた。
その様子を律子が意味深な笑みを浮かべて見ていて…「…りっちゃん?どうしたの?なんだか意味深な笑い方…」「ん?あぁ…いやね?あの時も思ったけど、何てことないプチ同窓会が出来て、ほんとに楽しそうにみんな笑えて良かったなあって…」「…あの時は本当にごめんなさい。結果的に2人を売る事を…」「ゆきちゃん!もうそれは言わないって決めたでしょ?今回の事は、みんな何かしらいけなかったの。
嬉しさで周りを見落とした、まなにのんちゃん…ああするしか仕方のなかった、さやかにゆきちゃん…無理にでも制止が出来なかったわたし…
だからね?もうごめんなさいは無しにして、今日は楽しもうよ?」とゆきさんとりっちゃんが話してると…何故かまなみが膨れていた…
なんだかまなみ達のやり取りを見ていると、あの事件の後、みんなのわだかまりも話し合って、ごめんは無しって決めたんだっていう事が解り、やっぱりまなみの友達は…りっちゃんを筆頭に良い娘が多いな…って微笑ましく思って見ていると唯さんが「…うふふ…まるで子供みたい…」と言うから「あれはまるで…じゃあなくてまんま子供だよ?」「でもあの娘達にとっては、一番無邪気に笑える時代に暗い影が落とされたですから、いま取り戻してるんでしょうね?ほんとに…本当に良かった…」「確かに、そうですね…こうしてあの年頃の時代って何でもない事でも無邪気に笑えていたから…その時代に……だけど唯さんの言う通り、取り戻しているなら…色々あったけど、本当良かった…」とカウンターに座って、唯さんにお酒をお酌してお猪口を当てて飲んだ。
しゅんくんは何か複雑な表情をして、ノンアルビールをちびちび飲んでいた。
少しして高田君が「あのノリと勢いにもうついていけない…」と避難する様にカウンターに来て、しゅんくんと時折話をしていた。
僕は唯さんと話ながら…大将の話って何だろう?気になるけど、どう切り出したら良いのだろう?とモヤモヤしてると
「それで、大将さん…お話って…」と僕の代わりに切り出して来た。その声に反応して、テーブル席も静かになった。
「あぁ、お姉さん…ちょっとタイミング早いよ?」「あら、でも気になる事は早めに済ませちゃった方がお互い気まずくないかなと思って。隣に聞きたくてウズウズしてる人いますよ?」「ゆうちゃん…」って大将に言われて、つい、俯いてしまった。
「それに、お話って美由紀さんの事じゃないですか?」と唯さんが聞くと「…勘の鋭いお姉さんだなぁ…よし、話って他でもない…」と大将が
あの事件のその後を教えてくれた。
関根らはやはりと言うか予想した通り、他にも余罪があり懲役刑は逃れない様で、美由紀さんも同じような罪を求めていたみたいだけど、まなみ達の嘆願もあり、被害者と言うこともあり、起訴猶予か厳重注意くらいで済むんじゃないか、と言うこと。
「そっかぁ…でも、美由紀さん…なんであんなのに捕まっちゃったんだろう…」とまなみの一言を聞いて大将が「あの娘が幼い頃に両親が亡くなり、親戚に育てられたけど、親戚と折り合いが悪いと言うかソリが合わなくて、高校卒業と同時に家を出て、働きながら一人暮らしをしていて、愛に飢えて心の拠り所を探している時に働いていたお店で、客として来た関根と出会い、身体目当てだと解っていたけど、甘い言葉と優しさに次第に騙されて…上辺だけだと解っていた筈なのに…身体を重ねる度に関根に依存し、関根の為なら女の子を騙しているうちに…次第に感覚が麻痺したみたいになって、騙される方が悪いって思う様になってしまったらしい。」そんな話を聞いて美由紀さんって本当はどんな娘だったんだろう?と言う疑問が出てきて、あの時解毒剤を飲ましてくれた時の事を詳しく話をしていたら
「…聞いてみるかい?お嬢ちゃん達…?
おおい、もういいぞ!入ってきな!」と大将が奥に向かって言うと「こ…こんにちは…」と呼ばれて入って来たのは髪を小綺麗に纏め、着物にエプロンをかけて、入って来たのは美由紀さん本人。
派手だった化粧も薄くなり、まるで別人…と僕がボー然としてると「え?ええええぇぇぇ!」とまなみ達は驚き絶句していた。
そんな俺達を尻目に大将が「警察の知り合いから相談があってな?あの娘の依存体質、このままだと、またあの小僧みたいなのに引っ掛からないとも限らないから、何とかならんかって言われてな…」「…!もしかして大将さん?」「その通り。保護観察がてら、ウチで働いてもらう事にしたんだ。美由紀自身、1人でいると後悔ばかりして心病むといけないし…それに住み込みで働いていた弟子がちょうど暖簾分けして、出て行ったから部屋が空いたところだったから住み込みにしちゃいなっていうことに…」と大将が言い終わった後、美由紀は黙って頷き大将に一礼して、まなみ達のいるテーブル席に向かい特に紀子に向かって深々と頭を下げて「ごめんなさい!アタシ少しだけだったけど禁固にもなって、落ち着いて1人で考えて…たくさんの娘を騙して傷つけて、痛い思いさせて…あの男と離れて冷静に物を見られる様になったら…怖くなりました。謝って許してもらえることじゃあない、何を今更殴られても、恨まれて殺されても仕方ないことをしてきました。
でも、謝る事しか出来なくて!まずはあなた達に謝りたかった。ほんとに…ほんとに…」と床に膝をつき、そのまま…
「そうね、正直わたしはあなたの事は許せない。どれだけ酷いことされて、恥ずかしい思いさせられてきたか…」と言って美由紀の動きを止め「たぶん何もなく事件が解決したとしたら、許せず憎んでいた。でもね?美由紀がわたしを助ける為にした時…」とあの日あの時、紀子やゆきが媚薬を飲まされていて、解毒剤を美由紀が飲ました事等詳しく話が聞けて、美由紀って本当はどんな娘何だろう?
大将が言っていた様に依存体質なら出会った男がたまたま最悪な男だっただけで、本当の美由紀って…?と何故か僕は知りたくなっていた。
すると紀子が「わたし達、あれからみんなで話し合って、お互いごめんは一回で無しにしようって決めたの。いつまでも引きずっててもいけないし…」と言うと「でも!でもアタシの罪はそんな一回じゃ…!どうしたら…どう償えば…何をして償っていけばいいの?」と泣きながら頭を下げて、上げれない美由紀。
それだけ本気で心から反省している様に見えて
大将が助け船出そうと何か言いかけたところで「それなら…わたし達、友達になろうよ?…」と
紀子が言い出し、僕は驚いた!あんな事された相手にそこまで言える何て…と思いながら高田君を見ると何故かうんうんと頷いている様に見えた。
高田
うん、やっぱり紀子らしい!話を聞いていると美由紀さんって心底悪い娘じゃないみたいだし、どちらかといえば可哀想な娘みたいだし…紀子の中のお母さんがそんな娘を見逃す訳ないよな?
と優しい眼差しで紀子を見つめていた。
「わたしも完全には割り切れない。だからね友達になって、笑い合って喧嘩して、その都度わかりあっていくの。美由紀がどうしても償いたいって言うなら、わたしはこうするしか譲歩しないよ?…どう?」と手を差し出す紀子。
遠慮がちに手を握り返す美由紀
「それなら私も」と律子が手を重ね、まなみもその上に…さやかとゆきはうなだれる肩を抱いて…
嗚咽を漏らしながら泣く美由紀「ど…どうしてそんなにお人好しなの?突き放されて、うるさいっバカって罵られる覚悟でいたのに!どうして…なんで許してくれるの?」「まなたちはね?許すって言うより、これからの美由紀さんみたくて、これからどうするかで、いくらでも挽回できるよ?…喧嘩になったら派手にやろうよ?そうして、ほんとの美由紀さん見せてね?」とまなみが言って美由紀は嬉し泣きに変わって泣いていた。
「実際…いい働きしててな?お客のウケもいいし、店が明るくなった気もするよ。
これは…まだウチのカミさんとだけの話だけど、このまま美由紀がいいと言うなら、あいつを養女として迎えようかって、考えてるところなんだよ。」と大将が僕と唯さんだけ耳打ちして来た。
「いいんじゃないですか?」と唯さんが目を細めて笑って頷いた。
僕は嬉し泣きしている美由紀さんを見ながら「僕もいいと思うよ?でもそうなれるかどうかは全て美由紀さんの行動一つにかかっていると思う…何なら大将、朝の仕込みの手伝いもさせてみたら?お店の接客だけでなくて…」
「ゆうちゃん…実はもうさせているんだよ?しかもあの娘からさせて下さいって頭下げてさ…だから、このまま美由紀がウチがいいって言ってくれたらって思っているんだよ?」「そっかぁ…それなら余計上手くいって欲しいな…」と言って美由紀を見ると暗く沈んだ顔から…以前の意地悪い、何かを企んでいる様な笑顔ではなく、柔らかく優しい笑顔を見せて喜んでいた。
その笑顔を見ると、僕は美由紀さんは本来はこんな笑顔で笑える娘なんだ、出会った男と周りの人間のせいで、ああいうふうになったとしたら、大将の元で本来の自分を取り戻せるかもな?それにまなみ達もいることだし、もう横道にそれる事は無いだろう…
ただ心配なのは、美由紀がこれまで騙して傷つけた娘達がこの事を知った場合…みんながまなみ達みたいな娘じゃないだろうから、その時が美由紀さんにとって正念場だろうな…
と思っていた。
瞬一
紀子さんが美由紀さんに出した要求、僕は何とも言えない気分になった…
僕も紀子さんみたいに許さないといけないのか?
でも…律子ちゃんがあの男達のせいで過去の傷を抉り出された、今はだいぶ、元の通りに戻った様に見えるけど…
それでも時折フラッシュバッグに襲われている様に見える時もある。
前を向いて進まないといけないのは解るけど、これで本当に良いのか?
美由紀さんが律子ちゃんに直接何かをした訳じゃないから、僕がこれ以上言うべきではないけど…
どうしたら良いのだろう…このやりきれない気持ちを…これでみんな良かったね?何て心から言えない僕の方がおかしいのか?
みんなの笑顔を見て、1人複雑な顔をしていた。
【まなみさん、お待たせ。
ちょっとしゅんくんの気持ち、変な方向に向かい過ぎたかな?
少し反省してます。】
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