【でもまだ、りっちゃんの結婚式もしなくちゃだし、やることありますよぉ?ま、ひとまずは…】
「えぇと、じゃあ…あらためて再会を祝して、かんばーい!」
(紀子の音頭で、今度こそ何の問題もない集まりが始まりました。この日は大将の計らいでお店を貸切にしてもらい、破格の安さの会費で回らないお寿司をいただけることに。さっそく、まなみ・紀子・さやかが話を弾ませています。)
「…りっちゃん?どうしたの?なんだか意味深な笑い方…」
「ん?あぁ…いやね?あの時も思ったけど、何てことのないプチ同窓会ができて、ほんとに楽しそうにみんな笑えてよかったなって思って…」
「…あの時は、本当にごめんなさい。結果的に2人を売る様な事を…」
「ゆきちゃん!もうそれは言わないって決めたでしょ?今回の事は、みんな何かしらいけなかったの。
嬉しさで周りを見落とした、まなにのんちゃん…
ああするしか仕方のなかった、さやかにゆきちゃん…
無理にでも止めるとか静止ができなかった…あたし…
だからね?もうごめんなさいは無しにして、今日は楽しもうよ」
「…うん!」
「…あの、すみませんがぁ…」
「?のんちゃん、どうしたの?」
「あそこであなたの姫がヤキモチやいてますよぉ?」
「…ぶぅ…」
(事件も終わり、みんなのわだかまりも話し合って、お互いごめんは無しにしようと決めました。
そんな無邪気な5人のやりとりを、カウンター席で唯は見ていました)
「…うふふ…まるで子供みたい。
でもあの子達にとっては、一番無邪気に笑える時間に暗い影が落とされてたんですから、いまそれを取り戻してるんでしょうね?
ほんとに…本当によかった…」
(こちらの組は、ゆうすけさんに唯、しゅんくんはともかくとして、「あのノリと勢いについていけない」高田くんが避難する様にカウンターにいました。)
「それで、大将さん…お話って…」
(ゆうすけさんが切り出せなくて気がかりだった、大将からの話。かわりに唯が切り出しました。
その声に反応して、テーブル席の方も静かにこちらを向きます。)
「ああ、お姉さん…ちょっとタイミング早いよ…」
「あら、でも気になることは早めに済ませちゃった方がお互い気まずくないかなと思って。隣に聞きたくてうずうずしてる人もいますよ?」
「…ゆうちゃん…」
「それに、お話って…美由紀さんの事じゃないんですか?」
「…勘の鋭いお姉さんだなぁ…よし、話ってのは他でもない…」
(大将は事件のあれからを教えてくれました。
関根らは余罪も多く、どうやら服役は免れそうにないこと。美由紀もまた、本人がそれを強く望んだものの、まなみらの嘆願もあり、美由紀自身も被害者でもあったという事で、今回は厳重注意という事になったそうです。)
「そっかぁ…でも、みゆきさん…なんであんなのに捕まっちゃったんだろう…」
(まなみの一言はもっとも。さらに大将の話は続きます。
どうやら美由紀は、早くに両親を亡くし、親戚に育てられたそうです。ですが、その親戚とはソリが合わず高校卒業と同時に家をでて、働きながら一人暮らしをしていました。
愛に飢えて、拠り所を探していた毎日。そんな時、働いていたお店で客として来ていた関根と出逢います。もともと身体だけが目当ての見せかけの優しさに騙されて、それが上辺だとわかっていても依存してしまい抜け出せなくなり、いけないとわかっていても関根の為にと女の子を騙しているうちに感覚がおかしくなってしまった様です。)
「そっかぁ…じゃあ美由紀さんって、本当はどんな人だったんだろう?私に解毒剤飲ませてくれた指の動き…ものすごく優しかった。耳元で、酷いことしてごめんね?って言われた気もするし…」
「あと一歩でゆきが危なかったって後で聞いて、ほんとゾッとした。そういう意味では、あたしのゆきを守ってくれたって…捉えてもいいのかな?」
「…聞いてみるかい?お嬢ちゃんたち…?
おおい、もういいぞ!入ってきな!」
「こ…こんにちは…」
「え?ええええええええええ!」
(驚き絶句する5人。無理もありません。大将に呼ばれて入ってきたのは、その美由紀でした。
着物にエプロンをかけて、髪は小綺麗にまとめています。派手だった化粧も軽くなり、とても美由紀だとは思えないほどです)
「警察の知り合いから相談があってな?その依存体質、このままだとまたあの小僧みたいなのに引っかからないともしれないから、何とかならんかって…」
「…!もしかして、大将さん?」
「その通り。保護観察がてら、ウチで働いてもらう事にしたんだ。美由紀自身、一人でいると後悔ばかりして心病むといけないし。
で、前に暖簾分けして出て行った、住み込みでいた弟子の部屋が空いてたから、じゃあ住み込みにしちまいなということに…」
(美由紀はだまって俯き、一礼をしながらカウンターを抜けてテーブル席の方に。そして5人、特に紀子に向かい深々と頭を下げます)
「ごめんなさい!
アタシ、少しだったけど禁固にもなって、落ち着いて一人で考えて…たくさんの子を騙して傷つけて、痛い思いさせて…あの男と離れて冷静に物を見れるようになったら、怖くなりました。
謝って許してもらえる事じゃない、何を今更殴られたりされても仕方ない事をしてきました。恨まれて殺されてもしかたない…
でも、謝ることしかできなくて!何を置いてもまずはあなた達に謝りたかった。ほんとに…ほんとに…」
(床に膝をつき、そのまま…
と、そこで動きを止めたのは、紀子でした)
「そうね、正直わたしはあなたの方は許せない。
どれだけ酷いことされて、恥ずかしい思いをさせられてきたか…たぶん何もなく事件が解決したとしたら、許せずに恨んだままだった。
でもね?みゆきがわたしを助ける為にした時、ものすごく責め方が優しくて…労りと思いやりが流れ込んできたの。」
「あ…それ、私も思う…指で飲ませてくれた。たったそれだけだけど…ほんとのこの人はこんな人じゃないって…思えてきて…」
「そう。だからわたし、あの時けんじに謝りながら身を預けたわ。
それにね?わたし達、あれからみんなで話し合って、お互いごめんねは一回で無しにしようって決めたの。いつまでも引きずっててもいけないし…」
「でも!でもアタシの罪はそんな一回じゃ…!
どうしたら…どう償えば…何をして償わせてくれる?」
(泣きながら頭を下げたきり上ることができない美由紀。それだけ本当に深く反省しているのが伺えます。大将が助け舟をだそうと口を開きかけると…)
「それなら…わたし達、友達になろうよ?
恨むんじゃなくて、わかり合うの。わたし、ホントのみゆきがどんな子なのか知りたい。
今までの事は水に流そ?大事なのはこれからだよ?
わたしもまだ完全には割り切れない。だから、友達になって、笑いあって喧嘩して、その都度わかり合っていくの。
みゆきがどうしてと償いたいっていうのなら、わたしはこうするしか譲歩しないよ?…どう?」
(差し出された手を遠慮がちに握り返す美由紀。
それなら、あたしも…と、律子もそこに手を重ねます。まなみもさらに重ねて、さやかとゆきはうなだれる肩を抱き…美由紀は嗚咽を漏らして泣きます)
「ど…どうして…そんなにお人好しなの?
どうして!そんなに優しいの!突き放されて、うるさいバカ!って罵られる覚悟でいたのに!
どうして?なんで?…なんで許してくれるの?」
「…まなたちはね?許すって言うより、みゆきさんのこれからをみたくって。これからどうするかで、いくらでも挽回できるよ?苦しくなったり辛くなったら言って?みんな聞くし、意見する。喧嘩になったら派手にやろうよ?そうして、ほんとのみゆきさんをみせてね?」
「うっ…うううぅ…うああああああっ!
ごめんなさいっ!ありがとうっ!アタシ、嬉しい!うれしいよ!」
「…実際…いい働きしててな?お客さんのウケも良いし、店が明るくなったような気もするのよ。
これは…まだウチのカミさんとだけの話だけど、このまま美由紀がいいというなら、あいつを養女として迎えようかって、考えてるとこなんだよ」
(ゆうすけさんと唯にだけ、大将はそっと耳打ちします。唯は目を細めて笑い、いいんじゃないんですか?と頷きます。
暗く沈んでいた美由紀に笑顔が戻り出します。以前の様な意地悪な笑いでなく、柔らかい優しい笑顔。
場の空気が和らぐ頃、さやかは紀子を肘でつつきます)
「あ、こないださやかとゆきとも話してて、罪滅ぼしというか、なんというか…
まなちゃんとりっちゃんに…これを…」
【長くなっちゃった。ひとまずみゆきちゃんの方をめでたしめでたしで。
で、次で関根編のおしまいにしようと思います。
のんちゃんが用意したものは…お楽しみに?】
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