「あ…、えっと、ご丁寧にありがとうございます…。白鷺屋の女将をしております、白鷺京花と申します…」
気が気でない時間を過ごし、広瀬金融の来客を待ち続けた。
白鷺屋を訪れた背広を着た男たちは清潔感のある佇まいで、思っていたよりも普通の人たちに見えたが…。
「…、い、一億…?な、なっ、え…?」
客室で借用書を見せられた京花は、その借用額に驚きを隠せなかった。
数百万と勝手に予想していた借金額だが、知らないうちに1億円の借金を背負わされており、もはや実感も湧かなかった。
「ここは売れません…っ!先祖代々受け継いできた旅館ですし、残りの五千万なんてとても…。」
歴史ある旅館だが、悪く言えば古く、老朽化も進んでおり、資産価値はあまり高くない。
五千万というのも納得だが、売ってしまえば全てを失い、半分の借金が残ったまま、路頭に迷うことになる。
(地道に返していけば…、でも、1億円の利子なんて毎月の稼ぎで払えるわけがないわ…。ここしばらくお客様も来ていないし…)
途方もない借金額に頭がいっぱいになり、汗を滲ませながら悩んでいたところ、もう一枚の紙が目の前に差し出される。
「な…っ、ど、奴隷契約書…?身体を売れと言うんですか…!?3000万を…」
七千万で買い取られるなら、旅館としては破格の値段。
しかも、売り払った後でも住んでいいという約束付き。
だがその代償として、残りの三千万は身体を使って稼がなくてはならない。
身体を売るといっても、三千万…。どのくらいで返済できるのか想像もできない。
「あの、少し考えさせてもらっても…」
と、口を開いたところ、付き人らしき男が怒号をあげる。1億円の借金に無返済となれば、仕方ないのかもしれないが、穂花に聞かれたく、慌てて頭を下げる。
「す、すみません…っ、わ、わかりました…。契約します…。ただ、娘たちには関わらないということは、約束してください…。」
(どのみち返済の手立てはないし、これ以上話を拗らせたら、娘たちにも危害があるかも…)
娘たちを盾にされると、冷静に考えることができず、奴隷契約書に署名と印鑑を押してしまった。
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