小夜は双刀に炎の気を載せて蜘蛛の巣を焼き落としながら
何度も刃を切り結ぶ。実力差は如何ともし難い差があるが、
最初から全力の速攻は、蜘蛛の女王ナトラをもってしても
人間の擬態では手に余るほど。パルフェタム忍軍の序列4位の
小夜、その刃を蜘蛛の糸で絡め取るのにも手を焼かされたのだった。
・・・激しい戦いのあと、蜘蛛の糸で無惨に磔にされた小夜の姿があった。
両腕をバンザイにされ、またをガニ股に割かれ、グッタリている。
それは魔人の血で発情を催した肉体には、魅力的な餌以外の何物でも無かった。
追跡者を無力化したら速やかに、この場から逃れて主である
ミサキの元に馳せ参じなくてはならない。それが現在の正しい状況判断。
しかし発情の熱で浮かされた蜘蛛の女王は判断を誤る。
事もあろうに虜にした少女対魔忍に粗相をしようと足を向けてしまう。
アラクネは1000年前の魔界では名のしれた勢力の一つだった。
女王として君臨したナトラのもと、彼女が産み落とした無数の蜘蛛の群れは
他の魔族にとって恐怖を振り撒いた存在だった。
魔族を狩り、その血をすすり、女の体に産卵して仲間を増やす。
数が増えすぎた子供たちを養うため、他の魔族たちとの争いに巻き込まれ、
激しい抗争の果て、より狡猾な魔族に敗北したナトラは子供たちを
根絶やしにされ、彼女は人間の世界へと逃亡を余儀なくされる。
そしてこっちの世界でも満身創痍のナトラは命を繋ぐため、ミサキの先祖に
よる捕縛を甘んじて受け入れ、その使い魔になる道を選んだのだった。
それでも長い年月を人間に仕えた事でナトラの中で人間への母性が目覚め、
今の主従関係はナトラにとって掛替ない最愛の関係となってる。
魔人の血がもたらす強力な発情作用は、その感情を脅かしていた。
主を仇をなす敵以外の人間を傷付けない事、人間を食べない。
人間と生殖をしない。これは使い魔として主従契約に定められている。
しかし魔人ベルナデットの血液はその同輩であるアラクネの魔族の肉体に
人間が接種するよりも作用が激しく本能へと訴えかけていた。
メス蜘蛛にとって産卵行為は、快楽の強い行為だった。
虫歯らの先にある産卵管を他の生物の体内に挿入する。
それは人間の男性がメスに行う生殖と真逆だが、同じ行為であり、
卵を産卵から送り出す瞬間の快楽は、人間のオスの射精と同様で
心地よい快楽を伴う極上の快楽行為だった。
「メスを手に入れた。産卵して仔を作りたい。無抵抗な人間に産卵したい。気持ちよく産卵したい。産卵快楽が欲しい・・・ちょっとだけ。ちょっとこの小娘の服を切り裂いて、メス穴に産卵管を突き刺して・・・卵を産み付けるだけ。この小娘は敵だからミサキへの裏切りにはならない」
そんな心の葛藤で魔が差した蜘蛛は、その足をベトベトの蜘蛛糸で
磔となり、気を失っている小夜に夢遊病者のように接近する。
直ぐ逃げなければさらなる追手が現れる可能性があるにも関わらず、
蜘蛛の女神ナトラともあろう者が本能に抗えず、判断を誤った瞬間だった。
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