待ちに待った火曜日の朝。
いつもより気合いを入れた身支度を整えて家を出て、駅に向かった。
今日は心強い援軍もいる。
痴漢男に報復する準備は万端だった。
駅で待ち合わせをしていた会社の人と会って、目的の電車に乗り込もうとしたら、痴漢男の方が降りてきた。
想定外の行動に、一瞬戸惑っていたが、私は平静を装って、
「おはようございます、早速ですが、お話はよろしいですか?」
と笑顔で応じた。
「こちらは、私の会社の、」
と同伴していた人を紹介しようとしたら、男の口から
「○○じゃないか?」
と驚いた表情で男は彼女の名前を呼んだ。
彼女も驚いた表情で、
「達也(仮名)くん?」
と聞き返した。
私も驚いて、
「もしかして、二人は知り合いだった?」と訊ねた。
さっきまでの緊張や、私が考えた痴漢男をやっつけるプランが、全部吹き飛んだ。
男は彼女の高校時代の同級生で、彼の奥さんは彼女の親友だった。
(結婚してたんだ)
と、少し残念な気持ちで私のお尻を触っていた手を見たら、結婚指輪が見えた。
(マジで修羅場じゃないか)
と思っていたら、彼女が男の頬を平手打ちした。
「どういうつもりよ!」
と怒鳴り付け、ホームにいた全員が二人に注目した。
(ドラマじゃないんだから、ビンタは無いだろ?)
と思い、その場に居たたまれなくなった私は、ホームの端に二人を連れて行った。
でも、(いくら親友の旦那だからって、元同級生を叩くか?)という疑問が湧いた。
愕然としている男と、感情的に錯乱している彼女の間で、何とか話を戻そうとしていたら、彼女から、
「ごめん、この件は、私に預けて貰えないかな?」
と言われた。
彼女の気迫に圧倒され、思わず私は頷いて、
「はい、お願いします」
と答えてしまった。
次の電車を待つ間、私が二人と距離を置いていたら、痴漢が彼女に
「オマエはかわらないな」
と言い、
「アナタは随分と変わったわね」
と言っていた。
(月曜日に下見した時は、彼女も全然気づいていない様子だった)
(エライ事に彼女を巻き込んだ)
と思っていたら、
「アナタは総務部よね?」
「遅刻は査定に響くから、先に行きなさい」
と言われ、
「私の上司には、午前中は外回りに行く、って伝えておいて」
と言われた。
目の前に女性専用の車両が停まり、私は駅で二人に見送られて、会社に向かった。
この時間、2000人ぐらいの乗客をのせた電車が、5分間隔で走っているから、あの男に私が痴漢されるのも、二人が何年も通勤している電車で会わなかったのも偶然だと思うけど、二人が私を通じて再会したのは、運命だと思った。
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