「やめて、やめて、」
「取らないで、取らないで、」
妻は娘に懇願していた。
縛られた妻は、消え入りそうな声で、夫を寝取ろうとしている娘に訴えていた。
後で聞いた話によれば、彼女が結婚する前に付き合っていたオトコは、かなりのクズで、さんざん弄ばれていたらしい。
家出娘だった彼女を自宅に連れ込み、嫌がる彼女をレイプしては、その様子を撮影してネットに投稿したり、仲間と輪姦してみたり、AVに出演させたり、悪虐非道の限りを尽くしていたらしい。
男達が逮捕されて、自由になったものの、親に見捨てられて、自ら風俗店で働きながら、一人暮らしをしていたという。
男に騙されては、稼いだお金も持ち逃げされたりして、人生に絶望していたところを、夫に救われたという。
手首には深く切った痕跡が、いくつもあった。
何度も傷ついた心と身体。
二度目の流産の後は、本気で生命を絶とうとしていたという。
そんな彼女が、最後に選んだ相手が、ネットで知り合った彼。
自分の運命を呪っていた彼女にとって、SMを体験するぐらいの事は、何の躊躇いもなかったらしい。
しかし、育ちの良い彼に身体を許している内に、彼女の心の中に希望が芽生え、人生をやり直す気持ちになれたという。
もちろん結婚には、多くの障害もあったが、気づいた時には、互いに無くてはならない関係になったらしい。
結婚してからも嫁として、夫の要求には何でも応えてきた。
嫌いだったセックスも、夫のおかげで好きになれた。
一度は夫の子供も懐妊したものの、不注意か何かで流産してしまい、母体へのリスクを案じた夫は、卵管結束による不妊手術も勧めていた。
まもなく40代となる彼女は、まだ出産する事は、諦めていなかった。
サトコ(仮名)を娘にした時は、本当の娘と思って、必死に頑張って[母親]を装ったらしいが、娘が夫に特別な感情を持っている事に気づいてから、再び闇が心を支配した。
陰湿なイジメが虐待に発展し、二人と一緒に暮らすのは無理だと考えていた時に、知人にサークルを紹介され、本格的に夫婦でSMを始めた。
被虐が彼女の狂暴性を抑えて、夫の命令を寵愛と理解できるように成長した。
男女同権の現代では、封建的なSMは[変態]の謗りを受けるが、Mに目覚めた彼女は、主人に支配される悦びを知った。
主人の調教で、自傷する事は減り、厳しい夫婦のルールに背いては、自ら罰を求めるようにもなった。
妊娠しても子供を産めない妻は、夫が他の女とセックスをする事だけは嫌がっていた。
子供を産めない劣等感を持つ彼女が、娘に夫を寝とられるのは、何より屈辱だった。
娘が夫の子供を産めば、嫁としての責任も果たせない自分は捨てられる。
と、思っていたのだろう。
娘に射精し終えた旦那は、私達に嫁の話を聞かせてくれた。
気になった私は、娘が子供を産んだら、嫁をどうするのか訊ねたら、
「家内は家内」
と答えた。
もし、娘以外のオンナに子供が出来ても、嫁を手離す気はないと断言した。
若い女に乗り替えたがるのが、男のサガだと思っていたが、こんな古風な男もいると知って、私も安心した。
私が呼び出したM男くんは、付き合っていたカノジョに浮気がバレて別れたばかり。
旦那の話は、良い勉強になったと思った。
屋敷を出た後、M男くんが私に話しかけてきた。
「りなさんの都合が良ければ、また僕を調教して下さい」
言われ馴れてるはずの言葉だったけど、その日は重く聞こえたので、私は即答を避けた。
その夜、私は携帯からサトコの名前を消した。
おしまい
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