夜の病院に着いた。
まだ面会時間があったので病室へ行くと、彼は夕食を食べていた。
元嫁は息子と、テレビを眺めていた。
「こんばんは」
と声をかけると、彼女は明るい笑顔で私を迎え入れた。
昨夜から点滴の始まった彼は、少し顔色も悪くなっていた。
元嫁も、疲れているのか、顔つきも窶れているように思えた。
息子は、他人の私に人見知りをして、ママにしがみついていた。
面会時間終了のアナウンスが流れると、元夫婦は手を握り、
「明日も来るからね」
と言って、別れを惜しんでいた。
二人をクルマに乗せて、家まで送った。
彼女は私に
「あがっていって」
と言った。
二人と夕食を共にして、彼女が息子を入浴させて、寝かしつけてる間、私はテレビを眺めていた。
「お待たせしました。」
バスローブ姿の彼女がビールを持ってきた。
「クルマの運転があるから」
と言って断ると、
「今夜は泊まっていって下さい」
と強い口調で言われた。
彼の様子を聞きながら、私は彼女の晩酌に付き合った。
一通り彼の話をしてから、彼女は私に
「主人と寝たでしょ?」
と聞いてきた。
バレてる予感はしていた。
二人は離婚しているし、彼女に文句を言う資格も無いし、私が責められる理由は無いと思って、納会での話も、彼と温泉旅行へ行った話も、全部彼女に話した。
彼女は相づちをうちながら、私の話を聞いていた。
話をしながら、私は地雷を踏んでる事を察していた。
離婚しているとは言え、タイプの違う女に、元亭主をネトラレた彼女の心境を考えていた。
(いつ怒り出すのかな?)
私は身構えていた。
話終えた後、彼女は私に、
「りなさんは、主人を愛してるの?」
と聞かれた。
「彼は素敵だし、好きだと思う」
と答えた。
愛してる、と言うのは避けた。
と言うより、私は彼をセフレとしか思っていない。
すると、
「私は、あの人の子供の母親です」
と言われた。
言葉が重かった。
彼女自身も、それを言って泣き始めた。
「ズルイよ、ズルイよ」
駄々をこねる子供みたいに泣いてる酔っ払いに、私は困惑した。
私にカラミ疲れたのか、少し眠そうにしていた彼女を、浴室へ連れて行った。
湯冷めして、風邪をひかせたら大変だと思っていた。
浴室には彼のバスローブもあったので、私も彼女と一緒に入浴する事にした。
「やだよ、やだよ、」
彼女は相変わらずグズっていた。
彼女を浴槽に入れると、すぐに大人しくなった。
浮力で彼女のオッパイがユラユラ揺れている。
彼女の軟らかい身体は、多くの男達に抱かれてきたM女の証。
Sの夫に愛されてきた証。
でも、それは抱かれても、男を抱いた事の無い女の証でもある。
抱いて貰ってきた旦那が入院している。
離婚しているものの、彼女は今も彼を愛しているらしい。
そんな健気なMを、可愛いと思っていた。
母親である彼女を、尊敬していた。
気がついたら、私は彼女とキスをしていた。
どうしてなのか、自分でも理解できない。
彼女もキスを返してきた。
元亭主を寝とった私に舌を絡ませてきた。
私達は敵同士。
女同士のSとM。
入院している彼を心配している私達は、なぜか二人で慰め合っていた。
「愛してる」
彼女に告白された。
私は答えなかった。
酔っ払いの戯言に付き合うつもりもない。
私は彼女の口を塞ぐようにキスをした。
酔っ払いに「愛してる」と言われるのが、不愉快に思えた。
私は彼女を愛していない。
愛しいとは思っているけど、
好きな男を心配しているのは私。
元嫁になんか、負けたくない。
不合理な葛藤が頭の中を巡り、シラフのはずの私も酔い始めていた。
彼の無事を祈るように
「お願い、お願い」
と呟く彼女と私は、祈るように抱き合った。
朝になり、先に起きた私は、彼女の寝顔を眺めていた。
昨日は、あれほど不安だったのに、恐れていた彼女と裸で眠り、彼女の温もりが、心地よくも思えた。
こんな朝は初めてだった。
目覚めた彼女は、びっくりして、裸のまま寝室を出ていった。
子供と鉢合わせしたらしく、彼女が必死に言い訳しているのが聞こえてきた。
可笑しかった。
彼女は、昨夜の事を覚えていないらしい。
彼女は、部屋に戻ると服を着始めたので、
「パンツを貸して」
と言ってみた。
他人にパンツを借りるのは、社会人になってからは初めて。
私は彼女のオバサン下着を履いた上にバスローブを羽織って、朝食を三人分作った。
子持ちの女と食べる朝食は、妙に家庭的だった。
今日は日曜日。
後で二人を病院へ送り届けたら、私も帰ろうと思う。
※元投稿はこちら >>