今日は、彼が一般病棟に入院すると言うので、半休を取って病院へ行った。
病室は二人部屋。
パジャマ姿の彼は、入院手続きで疲れていたが、元気な様子で手術前とは思えないほど明るかった。
しばらく話をしていたら、彼は検査に呼ばれ、私は一人で部屋のテレビを見ていた。
「りなさん?」
と呼ばれて振り返ると、見覚えのある女性が、荷物を抱えて立っていた。
彼の元嫁だった。
「おひさしぶり。元気だった?」
つい、以前の癖で、タメ口を吐いてしまった。
彼女は以前、サークルで面識があって、私より10歳ぐらい年上だったけど、当時はM女だったので、その癖が口をついてしまった。
「やっぱり、りなさんだ」
修羅場になると覚悟していた状況だったけど、あまりに明るく親しそうに話しかけて来たので、不意を突かれた。
「うちの人は?」
「いま、検査へ呼ばれてる」
「お義父さんとお義母さんは?」
「ご両親は、お昼を食べて帰ったらしくて、私も会ってないよ」
と答えた。
気まずかった。
まさか、平日の午後に介護と子育てに忙しいはずの彼女が、元亭主の見舞いに来るとは、思ってなかった。
「ちゃん(彼の息子)は?」
「ママ友に預かって貰ってます」
彼の荷物を整理している彼女は、すっかり所帯染みていて、M女だった頃の艶は、微塵もなかった。
二人は離婚してから一年以上。
それなのに、彼女は今でも彼の妻であるかのように振る舞っていた。
「奥さんはいますか?」
若い看護婦が私達に声をかけて来ると、
「はい」
と言って、彼女は看護婦から書類を受け取っていた。
何かの保証人らしいが、同居してない人というので、私が書類に名前を書こうと思ったら、
「私でも構いませんよね?」
と言って、彼女は書類に旧姓で署名した。
本人自署の項目は、彼が戻ってから記入するので、看護婦は書類を置いて、出ていってしまった。
数年前は、旦那の見ている前で裸にされて、泣きながら輪姦されてるM女だったのに、すっかり奥さんをしていた。
「沢尻エリカって、りなさんと同じぐらい?」
「東出夫妻って、やっぱり離婚するのかな?」
テレビを見ながら、オバサンみたいな話題を楽しんだ。
帰ってきた彼は、私達を見て、驚いた顔をしていた。
「私、帰るね?」
と言って、立ち上がると
「ありがとうございました」
と彼女は、深々と頭を下げて、私を見送った。
家に帰ってから、彼女からメールが届いた。
私と話がしたいらしい。
明日の夜、面会時間が終わったら、彼女を迎えに行く事にした。
何を言いたいのか、想像するのも恐い。
色々と想定問答を巡らせて理論武装。
今夜は眠れないかも?
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