明日はいよいよ手術。
今日は彼の子供を学校まで送って行った。
帰りは、彼女の母親が迎えに行く。
病院へ向かう途中、助手席の彼女が、
「主人と寝ましたね?」
と言われた。
嘘を吐くつもりもないので、
「怒ってる?」
と訊いた。
彼と寝たのは、二人が復縁する前の話だし、それがバレても構わないと思っていた。
座席の下には、万一の為に用意しておいた護身用の武器もある。
「お嬢って、そういう人ですよね」
彼女は怒るどころか、上機嫌だった。
[お嬢]というのは、私の昔の呼び名。
今はサークル内で[姫]と呼ばれている。
元会員の彼女に昔の呼び名で呼ばれるのは、少し気恥ずかしいが、訂正しなかった。
「昨夜の事だけど、」
と話をしたら、彼女は笑顔で、
「恥ずかしい」
と言った。
大人の色気に、少し気負った。
車内には、彼女の発散している匂いが漂っている。
もう、この話は止めようと思った。
「今日は、彼の毛を剃るんだよね?」
「剃った事ある?」
って訊いたら、
「自分で剃るか、剃られるばかりです」
って、彼女は笑った。
「大丈夫かな?」
って聞くから、
「病院だし、万一切り落としても、くっつけて貰えるでしょ?」
と言って笑った。
お互い不安だったけど、悲壮感は消えていた。
無事に手術が成功すれば、あの人も彼女も子供も幸せになる。
そう願った。
そして祈った。
彼は午前中、検査で部屋にいなかったが、数日前に手術をした人が、家族と一緒に病室へ来た。
カーテンを閉めた向こうから、談笑する声が聞こえた。
手術が成功したらしい。
希望が持てた。
彼が戻り、昼食を食べている間、同室の人の体験談を聞かせて貰った。
術後は隔離され、無菌室で治療するらしい。
薬の副作用はキツイらしいが、我慢できない事はないという。
中の看護婦さんの方が、美人で優しいと聞いて、彼も楽しみになったという。
食事が終ると、同室の彼は眠り、家族も帰って行った。
看護婦さんが、道具を持ってきた。
ハサミとカミソリ、お湯と蒸しタオル等々、SMスタジオでも使う道具を持ってきた。
「出来そう?」
看護婦さんに聞かれたので、
「失敗したら、ナースコールします」
って言ったら、看護婦さんも笑ってた。
カーテンを閉めて布団を捲った。
「き、緊張する」
という彼に、
「早く脱ぎなさい」
と命令した。
恥じらいながらパンツを脱ぐ姿は滑稽だった。
(こんなに小さかったかな?)
先月お手合わせした時とは印象が違った。
彼女は陶器に入ったクリームを泡立てると、刷毛で彼の下腹に塗り込み、蒸しタオルを被せた。
「あっちい」
思わず悲鳴をあげた彼に笑った。
蒸らされたせいか、タオルを捲ったら、少し膨らんでいた。
彼女は彼のイチモツを左手で押さえると、右手に持ったハサミでチョキチョキと刈り始めた。
縮れた毛がゴッソリ刈られて行く。
一通り刈り終えると、彼女は一息ついた。
指が疲れたのか、右手を振っていた。
「私が代わろうか?」
って訊いたら、
「大丈夫」
と言った。
再びクリームを塗られた彼の股間に、いよいよカミソリの刃があてられた。
見ているコチラも緊張する。
気がつけば、彼の肉棒は太く怒張していた。
嫁に握られて、ピクピクしている。
しかし、彼女は剃る事に集中しているのか、ゲームのスティックを操るように、無造作に傾けていた。
傾ける度に顔を歪める彼が滑稽だったけど、カミソリを握る彼女には見えていない。
(今、彼女の気を散らせたら、マジで失敗するかも?)
私は必死に笑いを堪えた。
物音さえ立てないように固まった。
「ジョリ、ジョリ、」
カミソリの通った跡が、キレイになって行く。
あれほど繁っていた彼の下腹に、スベスベの肌が露になる。
私も思わず顔を近付けて、覗き込んだ。
「大丈夫ですか?」
背後から担当ナースの声がした。
奥さんだけならともかく、私が一緒だとバレたら大変な事になる。
狭いスペースで、私の逃げ場は無かった。
夢中で剃ってる彼女の耳元で、
「大丈夫って言って!」
と囁いたら、彼女も我にかえって、
「大丈夫です。まだ途中なので、終わったらナースコールします」
と言った。
彼の寿命を心配する前に、私の寿命が縮まる思いだった。
つづく
※元投稿はこちら >>