私は由起子にどこかのタイミングで言おうと思っていたことを口にしました。
「俺…松田さん、タイプやねん」
「えぇ?」
「前から松田さんのこと可愛いなって思っててん」
「またまた、部長ぉ、何言ってるんですかぁ、だいぶ酔ってませんか?」
由起子は舌足らずなしゃべり方で照れたように笑います。
満更でもない様子はありありやで。
「いや、ほんまやで。ぶっちゃけ俺も男やん?一緒に仕事するんやったら可愛い子としたいやん?松田さんもかっこいい男の方が一緒に仕事したいやろ?」
「まあ、男性は仕事できたらかっこよく見えますよぉ」
「俺とか?」
「ははは、そうですねぇ。部長、かっこいいと思いますよぉ」
「だから、どうせ一緒に仕事するなら松田さんとしたいなって思っててん。もちろん、仕事に対しての評価もあるよ。でも、仕事ってできれば好きな人間としたいやん?今回の話もそういうとこあんねん」
前振りは十分だと思いました。
私はバーを出ました。
エレベーターに乗る時に、わざと由起子の背中に手を回してエレベーターに乗せたりしてみます。
ビルの外に出ました。
裏路地には人通りはほとんどありません。
私は先に歩こうとする由起子の肘を掴みました。
「もう1件、行かへん?」
「あ、でも私、あと1時間ぐらいで終電なくなっちゃうんですよぉ」
「そん時はタクシー乗せたるわ」
「あぁ…じゃあ、いいですけど」
「どこでもいい?」
「はい」
「じゃあ…ホテル行かへん?」
「え…」
由起子は酔いだけじゃなく、明らかに顔を赤くしました。
「いえいえ、何言ってるんですか、部長ぉ、酔っ払ってますかぁ?」
「たいして酔ってへんよ。さっき言った通り、俺、松田さんのこと好きやねん」
「ダメです、ダメです。もう帰りましょう」
「俺がダメなん?」
「いえ、そうじゃなくて…」
「俺のこと嫌い?」
「いえ…そんなことは…尊敬してます…」
「男としては?」
「…素敵だと思います」
「じゃあ、いいやん」
「部長、結婚してるじゃないですかぁ。恋人とかそういう関係でもないですし…」
「ふうん。俺、松田さんのこと買いかぶってたかなー。仕事もできるし、その辺は大人の女やと思ってたけど違ったか」
私は冷たい表情を作ります。
由起子は何も言わず下を向いています。
「そっか、松田さんがそういうことなら、俺はもうええわ」
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