「びっくりした?」
「え‥何が?」
「この部屋,何もないから‥」
美優さまが部屋を見回して言います。
「いつでも逃げれる様に。なんてね‥」
「え?」
「なんでだろね。まだ何回かしか会ってないのに‥」
「はい。」
「落ち着く。あんたといると‥」
「僕もです。」
「借金があるの‥。」
いくらですか?そう問いたいのに,無力な僕には聞けず,ただ下を向くだけでした。
「見る目がなかったんだよね‥仕事もしないでギャンブルばかり。たまに勝って小銭持って帰ってきては,『美味いもんでも,喰いに行こう』って。『今に楽させてやるから。』って夢みたいな事ばかり言って。」
「なんで,あんたにこんな話ししてんだろうね。バカだね私‥」
「そんな事‥僕で良かったら。」
「自分勝手な男‥借金残して,消えたよ。」
「そうなんですか‥」
「バカみたいな人生だよ。取り立てのヤクザみたいなのが,『仕事世話してやるから』ってソープランドで働けって。」
「普通の事してても,返せる額じゃないし,身体売るのも嫌だしって似た様なもんだけど,募集見て今の店に行く様になったのよ。趣味と実益を兼ねてね。」
美優さまが笑っていました。
「だから,恋愛とかできる立場じゃないの‥結構,合ってるみたいだしね。」
なんて言って良いかわかりませんでした。
「もう,お店には来ないで。こうして外で会えば‥電話で寂しい時,話し相手になってくれれば。ダメかな。」
「美優さま‥」
美優さまの優しさが痛いほど伝わってきます。
「僕,待ってます。」
「何を?」
「本当は,『一緒に借金返して行こう』って言えたら良いんだけど,無理だし‥だから,美優さまがその‥返し終えるまで。」
「バカね。いつになるかわからないわよ。あんたはあんたでまた別の人と‥私達は友達。話し相手,相談相手‥それで良いじゃない。」
「美優さん以上の人って見つけられない。」
「わからないわよ。恋愛は障害が多いほど,その気になるのよ。あんたはただ夢を見てるだけだよ。」
「でも‥」
「私はこんな女‥客の要望に応えて,鞭振るったり,ウンコまで出して見せて‥お金の為ならなんでもする女‥」
「でも‥」
「もうこの話しはおしまい。あんたの事,教えて。」
僕の事‥あまりにも平凡でただ生きてるだけの生活が恥ずかしく思えたのです。「まず,名前は?」
「〇〇祐一です。」
「他には‥」
「何もないです。すみません‥」
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